冷酷弁護士と契約結婚
アパートまでの20分、車内には重苦しい空気がながれた。聞こえてくるのは車のエンジンと雨の音。

居たたまれない気持ちを紛らわせるかのように、鈴音は窓の外を見続ける。




8世帯が入居できる2階建ての小さいアパート。

昭和後期に建てられかなり古いが、清潔に保たれていた。

各玄関の上には外灯がうす暗く光を放っている。

「送ってくださり、ありがとうごさいました」

早口でお礼を述べ、一礼してドアを開け、振り返ることなく逃げるようにアパートへ向かった。

1階横に集合郵便受けがあり、その先に2階へ続く階段がある。

郵便受けから大きな封筒を取り出し、無造作にカバンに入れながら2階へ上がる。

とにかく早く部屋へ戻りたい一心で。

2階奥、玄関の前に何か散らばっている。はがきより一回り小さいものが複数ある。かがんで手に取り、息をのんだ。

それらは盗撮された鈴音の写真、買い物している姿、駅にいる姿、会社から帰る姿......




車の中から部屋へ入るのを見守っていた涼介は、玄関前でかがんだまま動かない彼女を不審に思い、急いで2階へ向かう。

呆然として動けなくなった彼女の腕を取り、立ち上がらせる。

彼女が手にしている写真を見て、ストーカーだと確信した。

(遂に自宅まで来たか......)





二人が警察署を後にした時、もうすでに11時を回っていた。

涼介はただ立ち尽くす鈴音を放っておけず、

自宅マンションへ連れて行く。

「今日はもう寝ろ。お前は俺のベッドを使え。これからの事は明日話そう」

鈴音を寝室へ案内し、リビングのソファーで一息つき、ノートパソコンに先ほどの出来事を鈴音のファイルに追加した。

(俺らしくないな、女を部屋にあげるなんて......)

涼介はそのままソファーに横になり、足元にあるお見合い写真の束が入った袋を無視して、

目を閉じた......ある考えを思い浮かべながら。
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