冷酷弁護士と契約結婚
契約
寝心地のいいベッドで目を覚ました鈴音は飛び起きた。6畳の自分がいるはずの部屋ではなく、

その倍以上の広さで落ちつきがあるモノトーンでまとめられ部屋。

(えっ、えーっ、ここどこ?......確か送ってもらって、玄関の前に写真があって......)




「お、おはようございます」

か細い声で、リビングに入った。

新聞を読んでいた涼介が顔を上げ、有名ブランドのロゴが入った紙袋を鈴音に差し出す。

「昨夜コンシェルジュに用意させた。着替えに必要な物は全部入っているはずだから」

このブランドはTシャツだけでも1万円以上し、とてもじゃないが鈴音には手が出せない。

「あ、あのこんな高価なお洋服、お支払い出来ません」

紙袋を返そうと試みたが、涼介が受け付けない。

「いいから早く着替えてこい」

鈴音を浴室へ送り出した。

涼介は今まで女性からブランド品をねだられることはあったが、拒否されたのは初めて。

「アイツといると調子が狂うな」

呟きながらキッチンへ行く。




着替え終えた鈴音をダイニングテーブルへ座るよう促した。

「コーヒー飲めるか?カフェオレもできるが。好き嫌いが分からなかったから、適当に下のベーカリーでパン買ってきた」

「カ、カフェオレお願いします。何かお手伝いすることありますか?」

「コーヒーは俺が淹れるから、そこにある皿をテーブルへ持って行ってくれ。こっちの大皿に買ってきたパンを移して」

コーヒーの準備をしながら、彼女の事が気になりつい目で追ってしまう涼介。

カフェオレとコーヒーをテーブルに置き

「好きな物食べろ」

鈴音は大好きなクロワッサンをさらに取り、両手を合わせる。

「いただきます。ありがとうございます」

カフェオレを一口飲み、クロワッサンを口にした。

パリッとしたバターたっぷりの生地の中には、程よい甘さのアーモンドクリームがたっぷり入っていて、

思わず微笑みを浮かべる。

(へぇ~、こんな顔して笑うのか......)

いつもなら女性に対して寡黙になる涼介だが、彼女の【鈴を転がすような声】をもっと聞きたくなり、つい会話を進めてしまう。

「うまいか?」

「は、はい。このクロワッサンが一番好きなので」

「そうか。中に何か入っているのか?」

「アーモンドクリームが入っています。あまり甘くなくて美味しいです」

微笑む鈴音の口元についたクリームを涼介は親指で取り、そのまま舐めた。

突然のことに驚き、顔を赤らめた鈴音はただ恥ずかしくて俯くことしかできない。

そんな彼女を見て、涼介は悪戯っ子のような目つきで笑う。

(なぜだろう、コイツといると穏やかな気分になる。もっとからかいたくなる)

涼介は今までにない自分の知らない感情を落ち着かせるために、コーヒーを飲んだ。






「あのアパートに戻るのは危険だ。誰か頼れる人は?」

「......い、いません。両親は仕事の関係でアメリカにいます。

友達も会社の先輩にも危害が及ぶかもしれないので、

頼れません。新しいアパート見つけるまで、

どこか安いホテル探します。先生、お世話になりました」

立ち上がりカバンにスマホを入れたとき、昨日の郵便物を見つけ青ざめた。

鈴音の名前だけ書いてある大きめの封筒には、消印さえもない。誰かが直接郵便受けに入れたのだろう。

「どうした?」

「昨日郵便受けに入っていました......」

鈴音が震える手で差し出した。

「開けるぞ」

いやな予感しかしない。

『君が会社を辞めようと、どこへ行こうがいつも見ているよ。だって僕たちは一緒になる運命だから』

手紙と一緒に昨日と同じ写真が入っていた。

先ほどから震えが止まらない鈴音の呼吸は速くなり、目には涙をため今にも倒れそうだ。

「大丈夫、ここにはヤツは入ってこられないから。ゆっくり息を吸って......吐いて......そうだ、その調子だ」

優しく背中を撫でながら鈴音を座らせ、涼介も隣に腰を下ろす。

「少しは落ち着いたか?」

無言で頷く彼女に続ける。

「さっきも言ったが、このマンションにいる限り安全だから......お前さ、行く当てもないって言ったよな?」

涼介の目にふとソファーの横にある紙袋が目に入り、しばらく考えた。

「必要なのはセキュリティ完備の部屋......お前確か新しい仕事も探しているんだよな?」

「はい、でもセキュリティがいいお部屋は家賃が高すぎて。あまりお金もないし......それに先生の費用もお支払いしないと」

「俺の弁護士費用いくらか知ってるのか?他の奴らより高いよ。まぁ、それだけ価値があるからな、俺がやることは。

お前、どうやって払うつもりだ?」

「す、少しずつでもお支払いしますので」

「俺は慈善事業をしているつもりはない。今すぐ払えなければ、他の方法で払ってもらう」

その言葉を聞いて鈴音は青ざめた。

「何を考えているんだ、お前?他の方法っていうのは、俺と結婚するってことだよ」

「......?」

思考が追い付かない鈴音に続ける。

「結婚って言っても、契約結婚だよ。もちろん籍は入れてもらう。お前は俺と結婚することでまず苗字が変わり、その上セキュリティ

が整っているこの部屋に住め、ストーカーの目をあざむくことができる。仕事は俺の秘書をすればいい。今丁度秘書を探していたし。

書類の作成や調べものがほとんどだが、スケジュールも管理してもらう。俺にもメリットがあるんだよ、この結婚。

したくもない見合いを勧められることがなくなる。面倒な恋愛や結婚なんてするつもりはないが、この歳になると周りがうるさい。

それに社会的にも世帯を持った方が信用されやすい。まぁ女除けだな。ところでお前、いくつだ?」

「は、20歳です......」

「俺は32歳......一回りの歳の差だったら大丈夫だな」

「年齢の事ではなくて、この結婚自体無理です。わ、私と先生では釣り合いません......

あ、あの知り合いの女性に頼まれては?」

「女の知り合いなんていない。彼女もいないし、作らない。大体女とは一晩だけの関係しか持たないし、同じ女を二度抱くことは絶対

にない。そもそもこういう女たちはこの契約結婚に向かないんだよ。だからお前なんだ。弁護士費用払えないだろう?」

涼介は淡々と続ける。

「経済的に不自由はさせない。学生時代から投資もしているし、ここを含めて3件の物件も所有している。

お金の心配はしないでいい。生活費も渡すし、何より俺の費用払わなくて済む」

「でも......」

(やっぱり無理だよ......契約でも結婚だよ?えっ、まさか体の関係も?

私キスだってしたことないのに、絶対無理!

そうなるのは好きな人とがいいもん。でも先生は違うみたいだけれど......)

戸惑い決めかねている彼女にイラつきを覚え、少し声を張り上げて冷たく言い放つ。

「お前は俺と結婚するんだよ、いいな?」

怯えた鈴音は首を縦に振るのが精一杯だった。

「よし!早速だが婚姻届に記入して。これから一緒に暮らすにあたっての契約内容も決めるから。

その前に、お前の部屋の荷物処理を手配するぞ」
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