0.0001%の恋
 今日は金曜日。仕事の後に亜子ちゃんが俺の元に通うようになって一週間が経過した。勉強は順調に進んでいる。

「週末まで勉強に費やして、亜子ちゃん大丈夫なの?彼氏に嫌な顔されるんじゃない?」

 これはセクハラにあたるのだろうか‥‥内心ヒヤヒヤしながらも、恋人がいるかどうかを確認したくて、どうしても聞かずにはいられなかった。なんとも生きづらい世の中である。

「嫌な顔する彼氏がいないから全然大丈夫ですよ‥‥って、やだ!ごめんなさい!もしかして深山さん、今日なんか予定ありました!?」

 ん?それは彼氏がいないってことなのか?それとも嫌な顔をしないだけで彼氏はいるってことだろうか?‥‥一瞬戸惑うが、とりあえず亜子ちゃんの誤解は解いておこう。

「いや、俺は恋人もいないし、いつでも暇だから全然平気。むしろ週末を亜子ちゃんと過ごせてラッキーって感じ?」

「ラッキーなのは私の方ですよー。深山さんが勉強に付き合ってくれて、本当助かってるんですから。そうだ!お礼のご飯!良ければこれから飲みにでも行きませんか?」

 まじか!こんなの、絶対俺の方がラッキーに決まってるじゃんか!思いがけない亜子ちゃんからの誘いに、俺は心の中でガッツポーズをしたものの、なんとか平静を装った。

「お!いいね!じゃーキリもいいし、今日はこの辺で終わりにしようか?」

 亜子ちゃんと飲みに行くのはプロジェクトのキックオフ後にあった飲み会を入れても2回めだった。あの時の亜子ちゃんは接待要員だったから全く絡むチャンスがなかったし、今回がはじめてと言ってもいいかもしれない。

「深山さんて確か私の2歳上ですよね?もう30歳?若く見えるって言われません?」

「うーん‥‥たまに言われるんだよね、なんでかなー?頼りないって思われがち?」

「頼りないことはないですよー。見ためかな?若手俳優とかにも多いじゃないですか、タヌキ顔っていうんですかね?かわいい系で、年上の女性とかにもてそう?」

「亜子ちゃんは?どういう人がタイプなの?」

 アルコールの影響で亜子ちゃんの警戒心が下がっているのをいいことに、さりげなく探りを入れてみる。

「うーん‥‥そうだなー‥‥この前父が『賢くないと家族を守れない』って言ってたんです。家族云々は置いておくとしても、賢くて仕事ができる人ってかっこいいですよねー。タイプって言えるかはわからないけど、憧れちゃいます」

 少し照れた様子で話す亜子ちゃんの目線は左上をさまよっている。もしかして誰かを思い浮かべてる‥‥?

「そして結局のところ、人はイケメンの魅力には抗えないんですよ‥‥こればっかりはしょうがない、イケメンは正義なんです!」

 心なしか、亜子ちゃんの目が据わってる‥‥彼女は思ってたより酔っているのかもしれない。
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