0.0001%の恋
「現時点で一番怪しいのは経理部だ。だが他部署の人間も出入りしてるだろうし、その線も含めて早急に経理部内での聞き取り調査を進めてくれ。それから、すぐそこに監視カメラがあっただろ?その日の朝経理部に出入りした者の映像が残ってないか確認して欲しい」

 監視カメラは古い映像を消去しながら直近の録画をしてるんじゃなかったか?慌てて確認してみると、やはり2週間分しか録画が残っていないようだった。こうしている間にも古い映像は消えていくのだ。取り急ぎ現時点で残っている分を保存するため、メモリを回収しに行く。

「あー‥‥残念ですがその日の映像はちょうど午後からしか残ってないみたいです。犯人は監視カメラのことを知ってて、それでわざわざ半月も送信を先延ばしにしたのかもしれませんね」

「午後の映像が残ってたなら、本当にタッチの差じゃないか!くそっ!」

 冷静沈着なイメージのある常務が声を荒げている。今回のことが余程腹に据えかねているのだろう。

「2週間分の録画が残っている設定なので、本来は午後の分も消えてるはずなんです。午後の分が残ってるのは多分おまけみたいなもんですね。あと数時間早く確認していたら、犯人の思惑が外れて何か写ってたかもしれないのに‥‥悔しいです」

「とにかく、経理部長は今すぐ聞き取りを開始するんだ。深山君は消去された映像の復元ができないか調べてみてくれ。その結果と、他にも何か気づいたことがあれば、私か常務に直接報告をあげるように」

「承知しました」

 映像の復元は専門業者に依頼することになった。まだ上書きされたばかりのデータだったおかげで復元は無事に成功し、翌日の夕方にはメモリが手元に戻ってきた。早速送信予約がされた時間の映像を確認する。

 その日の早朝から送信予約がされるまでの時間、経理部に出入りした人物をチェックしていく‥‥始業前だったため出入りは少なく、確認はあっという間に終了した。

 定時はとっくに過ぎていたが報告は早い方がいいだろうと思い、社長室に足を運ぶ。アポイントなしで社長に会わせてもらえるのかと半信半疑だったが、すんなり社長室に通された。

「当日の朝、他部署の人間が出入りした様子は全くありませんでした。これで経理部の誰かがやったというのはほぼ確定ですが、送信予約がされた時刻にはほとんどの人が部内にいたようなので、パソコンのログや監視カメラの映像からの特定は難しいと思われます」

 その時間経理部にいた社員のリストと、同じ時間に使用されていた端末のリストを、監視カメラのメモリと一緒に社長へ提出する。

「そうか‥‥なら後は、経理部長の聞き取り調査の結果を待つしかないな。深山君、ご苦労だったな、ありがとう」

 システム部の俺にできるのはここまでだ。聞き取り調査で犯人が見つかることを祈ろう。
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