0.0001%の恋
「亜子にその気があるなら、見合いの話を探してやってもいいんだぞ?」
あの噂以降、田中さんとはあまり関わらないようにしていた。プロジェクトから手を引くなら、気持ちも徐々におさまるだろう。諦めるにはちょうどいい頃合いなのかもしれない。
「そうだね、それもいいかも。異動するならすぐには無理でも、見合いは30歳になる前にしないと、市場価値がだだ下がるもんね?」
「年齢で価値をはかるような奴に亜子は絶対にやらん!」
下手に自分で探すより、父に任せた方が幸せな結婚ができるかも‥‥?どっちにしても、やたら誰かとくっつけようとされるよりは大分ましな気がする。
「異動の件は営業部長と話し合ってみる。しばらくは大変でも我慢してもらうしかないが‥‥亜子、あまり無理はするなよ?」
「うん、わかってる」
私が社長の娘であると公表されて以降、よくも悪くも職場に変化はない。
仕事に支障が出ない最小限の関わり‥‥これが大人の拒絶の仕方だ。こんなの、ほぼ無視と一緒である。
静かな悪意が蔓延する中で黙々と仕事をこなし、定時になるのをひたすら待つ日々が続く。
発注システムの改善はほぼ完了し、あとは詳細を詰めれば開発段階に入る。これまで二度手間三度手間となっていた行程が、いくつかのシステムを統合したことでひとつの画面で完了するようになった。
改善すべきシステムは他にもあり、続けてそのタスクに取りかかる予定だ。平行して製造や技術のシステムも改善が行われているはずである。それらをリンクさせることで、できることが格段に増えるという。
でも、私は今回のタスクで営業部から抜けるため、それらに関わることはない。
確かに仕事のモチベーションは下がっているが、長い時間をかけ検討を重ねたシステムが形になったことは、苦労した分だけ達成感も半端ない。大変だったけどそれ以上に楽しかった。
プロジェクトから抜けるのは正直悲しいが、同僚とうまくコミュニケーションが取れていない私は、この先必ず足手まといになるだろう。
残念だけど、仕方がない。少しだけでも関われたことで、私自身成長できたと感じるし、それでよしとしなければ。
先週部長から異動の件を報告されていた。
「社長から橘の今後について相談されてね。本音を言えばこのまま営業部にいて欲しいが、現状を考えるとそれを強く主張できないのも確かだ‥‥俺の力不足で橘に肩身の狭い思いをさせてしまって、本当に申し訳ないと思ってる」
あの部長に頭を下げられ、恐縮してしまう。
「日常の業務は残った奴らでなんとかするしかないが、それはあいつらの自業自得だししょうがない。だがDXの方はなあ‥‥」
渋顔の部長が頭をガシガシかきむしる。私が抜けなかったとしても結果は大きく変わらないと思う。やはりこれも仕方のないことなのだ。
あの噂以降、田中さんとはあまり関わらないようにしていた。プロジェクトから手を引くなら、気持ちも徐々におさまるだろう。諦めるにはちょうどいい頃合いなのかもしれない。
「そうだね、それもいいかも。異動するならすぐには無理でも、見合いは30歳になる前にしないと、市場価値がだだ下がるもんね?」
「年齢で価値をはかるような奴に亜子は絶対にやらん!」
下手に自分で探すより、父に任せた方が幸せな結婚ができるかも‥‥?どっちにしても、やたら誰かとくっつけようとされるよりは大分ましな気がする。
「異動の件は営業部長と話し合ってみる。しばらくは大変でも我慢してもらうしかないが‥‥亜子、あまり無理はするなよ?」
「うん、わかってる」
私が社長の娘であると公表されて以降、よくも悪くも職場に変化はない。
仕事に支障が出ない最小限の関わり‥‥これが大人の拒絶の仕方だ。こんなの、ほぼ無視と一緒である。
静かな悪意が蔓延する中で黙々と仕事をこなし、定時になるのをひたすら待つ日々が続く。
発注システムの改善はほぼ完了し、あとは詳細を詰めれば開発段階に入る。これまで二度手間三度手間となっていた行程が、いくつかのシステムを統合したことでひとつの画面で完了するようになった。
改善すべきシステムは他にもあり、続けてそのタスクに取りかかる予定だ。平行して製造や技術のシステムも改善が行われているはずである。それらをリンクさせることで、できることが格段に増えるという。
でも、私は今回のタスクで営業部から抜けるため、それらに関わることはない。
確かに仕事のモチベーションは下がっているが、長い時間をかけ検討を重ねたシステムが形になったことは、苦労した分だけ達成感も半端ない。大変だったけどそれ以上に楽しかった。
プロジェクトから抜けるのは正直悲しいが、同僚とうまくコミュニケーションが取れていない私は、この先必ず足手まといになるだろう。
残念だけど、仕方がない。少しだけでも関われたことで、私自身成長できたと感じるし、それでよしとしなければ。
先週部長から異動の件を報告されていた。
「社長から橘の今後について相談されてね。本音を言えばこのまま営業部にいて欲しいが、現状を考えるとそれを強く主張できないのも確かだ‥‥俺の力不足で橘に肩身の狭い思いをさせてしまって、本当に申し訳ないと思ってる」
あの部長に頭を下げられ、恐縮してしまう。
「日常の業務は残った奴らでなんとかするしかないが、それはあいつらの自業自得だししょうがない。だがDXの方はなあ‥‥」
渋顔の部長が頭をガシガシかきむしる。私が抜けなかったとしても結果は大きく変わらないと思う。やはりこれも仕方のないことなのだ。