0.0001%の恋
 どう返信すべきか一瞬迷ったが、会って話がしたいとだけ伝えることにした。メッセージを送信してしばらくの間スマホの画面を眺めていたが、既読はつかない。今日は土曜日だし、田中さんはまだ寝ているのだろう。

 部屋を出てリビングへ向かうと、既に朝食を済ませたらしい父と母がそれぞれ寛いでいた。

「おはよう」

「おはよう。朝食、残してあるからパンは自分で焼いてね?」

「あーありがとう。コーヒーも残りもらっていい?」

「いいわよ」

 パンが焼き上がるまで、コーヒーを飲んでひと息つく。

「昨日はお兄ちゃんと会食だったんでしょ?珍しいわね?亜子も知ってる方だったの?」

 母がテレビを消して私の向かいに移動し、話しかけてきた。

「あー、うん。営業にいた頃お世話になったコンサルの人」

「ああ、田中君か」

 ソファーで新聞を読んでいた父も顔を上げて会話に加わる。

「うん、そう。田中さん」

「田中さんて‥‥亜子と噂になった人?」

 どうやら母も父や兄から話を聞いていたらしい。できれば気づいて欲しくなかったがしょうがない。

「あー‥‥昨日はその噂のことで会ったんだ。田中さんは何も悪くないのに責任を感じちゃってたみたいで、ずっと謝りたかったんだって」

「そうなの‥‥随分真面目な方なのね」

「ああ、田中君は将来有望だし、凄くいい青年だよ。彼のおかげでうちのデジタル化も順調に進んでるしな。会社の方も規模を拡大するために色々頑張ってるみたいだよ」

 酔ってなくても父の田中さん推しは変わらないらしい。話が変な方に進む前にどうにか話題を変えたいが‥‥

「パン!そろそろ焼けたかなー?」

 とりあえずキッチンに逃げ込むことに成功したが、戻ったら話題が変わってることを祈るしかない。

「田中君なら亜子を嫁に出したいと思ったんだがなあ‥‥」

 残念‥‥席を外してる間に話が核心に迫ってしまった。

「どうやら彼は仕事に夢中で結婚は考えていないみたいでね」

「あら。でも勇樹と同い年なんでしょ?30後半で未婚て、なんか意味深よねえ‥‥亜子もそう思わない?」

「いや、私ももうすぐ意味深な年齢になっちゃうし、人様のことはどうこう言わないでおこうかな?」

「‥‥‥‥それもそうね」

 なんだかもの凄く居心地が悪いので、爆速でパンを頬張って部屋に戻ることにした。やはり適齢期を迎える前に、無理にでも家を出た方が良かったかもしれない‥‥
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