0.0001%の恋
 部屋に戻ってスマホを確認すると、田中さんから返信が来ていた。

『では明日、ランチをご一緒しましょう。12時に予約を入れたので、店で落ち合う感じでいいですか?』

 どこで誰に目撃されるかわからないから、現地集合は都合がいい。

『承知いたしました。ではまた明日』

 まだ付き合っているわけではないし距離感がわからない。どうしてもビジネスライクな返信になってしまったが、実際は雄叫びをあげたい程興奮していた。

 でも、あまり浮かれ過ぎてはいけない気がする。だって田中さんが私のことを好きだからお付き合いしたい、という話ではないのだ。あくまでも、お試しで付き合ってみる?くらいの話なのである。

 それはつまり、雷が直撃したのではなく、科学館とかでやってる雷を再現した放電実験を見学するみたいなものだろう。足を運べば誰でも体験できるということだ。

 でも待てよ?例えお試しだとしても、万が一私と田中さんがお付き合いすることになってそれがばれたら‥‥流血沙汰になる可能性があるのか?

 いや、大丈夫。とりあえず今回は現地集合現地解散だ。きっと誰にもばれないはず。その先のことは、その時になったら考えればいい。

 とにかく今はこの喜びを噛みしめよう。昨日まで田中さんを諦めることばかり考えていたというのに、例え命を狙われることになったとしても、今この瞬間は天にも昇る気持ちである。

「明日何着て行こう‥‥」

 メッセージに添付されていた店を検索してみると、カジュアルフレンチっぽい店らしい。特にドレスコードはないだろうけど‥‥ここは無難にワンピースが正解か?

 クローゼットを探るも、仕事ではあまりワンピースを着ることがないから、手持ちがほとんどない。

「うーん‥‥今日は買い物に行こう!」

 美容室も行った方がいいか‥‥?いや、あまりやり過ぎると母に気づかれるかもしれない。まだ付き合うかどうかもわからないのに、結婚がどうとか騒がれたりしたらやっかいだ。とりあえず今回は服を買うだけにとどめておこう。

 ネイルくらいは平気かな?デザインをあまり変えなければ気づかれにくいかもしれない。うん。いつもの店に予約を入れておこう。なら買い物は日本橋か‥‥まあいいのがなければ銀座まで足を伸ばしてもいい。

 時計を確認するとちょうど9時を過ぎたばかりだ。ネイルの予約が11時に取れたので、今からゆっくり準備しても十分間に合う。今日は忙しくなりそうだ。

 ああ、早く明日にならないかな。
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