0.0001%の恋

恋人(確)

 指定された店は恵比寿。時間よりだいぶ早く到着したため、適当に時間を潰してから店へ向かった。

 オープンして間もないというそのお店は程よく降り注ぐ自然光がとても落ち着いた雰囲気を醸し出していた。そしてそんな素敵な空間に王子様のようにキラキラしい田中さんが待っていて‥‥突然異世界に飛ばされたかと勘違いしそうになる。

「橘さん、こんにちは。場所はすぐわかりましたか?」

「はい。凄く素敵なお店ですね‥‥なんか緊張しちゃいます」

「今日は2人だけですし緊張せずに楽しんで下さい。ここ美味しいって評判みたいですよ?」

 休日仕様でいつもと雰囲気の違う田中さんを前にして、緊張は最高潮。美味しい料理を食べても味なんてわからなくなりそう‥‥と思ったのだが、確かにここの料理はどれも凄く美味しくて、緊張してたのも忘れて存分に味わえた。

「ちゃんとしたフレンチって結婚式とかでしか食べたことなかったから、こんなに美味しいとは思ってなかったかも‥‥ここのお料理、本当に美味しいですね?」

「喜んでもらえて良かった。相談もせずコースで予約しちゃったから、気に入ってもらえるか不安だったんです」

「凄く気に入りました!またお友達を誘って来ようと思います!」

「そんなに気に入ってもらえて嬉しいけど、どうせなら俺を誘ってくれたらもっと嬉しいんだけどな」

 そうだった。今日はただ食事をしにきたわけじゃなかった。料理が美味し過ぎて完全に油断していた。

「そ、そうですね。是非、また一緒に、食べに来たいです‥‥」

 田中さんが一気に甘い雰囲気になり、恥ずかしくて顔を上げられない。きっとまた、私の顔は耳まで真っ赤になっているだろう。田中さんがクスクス笑っている気がするのは、多分勘違いじゃないはずだ。

「それって、俺と付き合ってもいいってことかな?橘さんさえ良ければ、俺は橘さんと付き合いたいって思ってるんだけど‥‥」

 少し視線を上げると、優しい表情で微笑んでいる田中さんが、まっすぐ私を見つめていた。

 何これ、やばい。とけちゃいそう。見つめ返すことなんてできるはずもなく、すぐに視線を下へと戻した。

「橘さん‥‥?」

「あの‥‥その‥‥はい。よろしくお願いします」

「はあああ~」

 大きなため息が聞こえて顔を上げると、田中さんが両手で顔を覆っていた。

「良かった。凄く緊張した。でも本当嬉しい」

 少しして両手をおろした田中さんの笑顔が眩し過ぎて、目が潰れるかと思った。

 こんな調子で、本当に私は田中さんとお付き合いなんてできるんだろうか?不安しかない。
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