0.0001%の恋
 止まっていた食事を再開し、そこからは今後について話し合った。

「とりあえず、名前で呼んでもいい?亜子‥‥亜子さん‥‥亜子ちゃん?」

「田中さんが呼びやすいのでいいですよ?そうか、私も田中さんじゃなくて‥‥光希さん?」

「うん、いいね。じゃあ、俺はとりあえず亜子ちゃんかな」

 会社で年上の人からそう呼ばれることが多いけど、田中さんのちゃん呼びは特別感があっていい。凄くいい。

「あとは、そうだな‥‥亜子ちゃんが異動してから会社で会うことはなくなったし、そこまでシビアに考えることはないかもしれないけど‥‥付き合ってることは極力知られないようにした方がいいかもしれないね」

「いや、そこはシビアにお願いします。できれば流血沙汰とかは避けたいなって‥‥」

「流血沙汰‥‥?」

「だって、一度ランチに行っただけであんな大騒ぎになったんですよ?例えお試しだったとしても付き合ってると知られるの、やばくないですか?」

「うん、そうだね、そうかもしれない。用心に越したことはないもんね。万が一があったら後悔してもしきれない。うん、シビアにいこう」

「基本は今日みたいに現地集合現地解散がいいですよね。‥‥でも、それだとあまりデートできなくて寂しいな」

 シビアに考えると言ったのは自分なのに思わず本音が漏れてしまった。

「日中ならいいけど、夜に現地解散はしたくないな。それなら俺はドライブデートがいい。都内を出ればわりと自由に動けるでしょ?一緒にテニスとかゴルフとか、釣りとかも楽しそう。観光したり、美味しいものを食べに行くのもいいよね」

「はい!それは凄く楽しそう!」

「あとは‥‥俺はひとり暮らしだから、家で映画を観たりゲームをしたり。一緒に料理とかしても楽しいかも?」

「凄い‥‥なんか絶対ばれない気がしてきた」

「ちなみに、ご両親に俺とのこと話すつもりはある?」

「ああ‥‥両親‥‥うーん‥‥」

 浮かれていた気分が一気に現実に引き戻される。田中さん、容赦ないな。

「私ももうすぐ30歳になるし凄く心配されていて‥‥お付き合いしてる人がいるとわかれば両親は会いたがると思うんです。でも両親に紹介したらすぐに結婚とか言い出しそうで‥‥」

「そうか‥‥付き合い始めてまだ数十分じゃ、結婚のことなんて考えられないよね」

 ですよね、いきなり結婚は重過ぎますよね。

「この先どうなるかわからないし、できればまだ秘密にしておきたいなって。でも最近、見合いみたいな感じで父から男性を紹介される機会が結構あって‥‥秘密のままだとそれが続いてしまうから、それもどうかなと思わなくもなくもなく‥‥」

 これじゃ、言い訳しながら結婚を迫ってるようなもんだ。付き合って数十分なのに、重過ぎる自分が嫌になる。
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