0.0001%の恋
「あの時は深山君のおかげで本当助かったよ!あの手の問題は社内で解決するのは難しいらしくて、外部の介入もやむなしかと思ってたんだが、まさか2日で解決するとは恐れ入ったよ」

 上機嫌な父が『まあ飲め飲め』と深山さんに酒をすすめまくっている。適当なところで止めないと、大変なことになりそうだ。

「新規プロジェクトでも活躍してるらしいじゃないか。システム部の部長も褒めてたよ。深山君、君はなかなか優秀だから、私も期待してるんだ!」

「あ、ありがとうございます」

 父の勢いが凄過ぎて、深山さんが完全に引いている。

「お父さん、大丈夫?ちょっと飛ばし過ぎじゃない?」

 どうやら止めるタイミングが遅過ぎた。

「亜子!結婚するなら深山君みたいな賢くて優秀な奴がいい。ほら、見てみろ。賢くて優秀な上に、たれ目で優しそうじゃないか。彼は最高だ!すぐに結婚しろとまでは言わない。とりあえずお付き合いをしてみたらいい!うん、それがいい!そうしよう!」

 ん?何これ、デジャブかな?前に同じセリフを聞いた気がするのだが‥‥

「あーもー!なんでそんなになるまで飲んじゃうかなー。わかったから、今日はもう終わりにしよう?」

 深山さんに謝り倒してとりあえずこの場はお開きとなった。どうにか父を車に押し込み、あとのことはドライバーさんにお願いする。

「父が本当に申し訳ありませんでした」

 社用車を見送った後、深山さんに土下座する勢いで謝罪する。

「いや、俺は全然大丈夫。お肉、本当に凄く美味しかったし?」

 深山さんが優し過ぎて、罪悪感が凄い。

「あの‥‥まだお時間平気だったら、近くで飲み直しませんか?」

「うん、いいね。そうしよっか」

 駅前に移動して適当な居酒屋に入った。平日の居酒屋は半個室でもわりと静かで、やっと落ち着いて話ができそうでほっとする。

「社長って、酔うといつもああなの?」

「いや、全然そんなことないですよ?仕事で飲む時はセーブしてるみたいだし、あんな酔い方はしないですね。私や兄がいると、つい飲み過ぎちゃうみたいですけど‥‥」

「あの‥‥さ。さっきの話だけど‥‥」

「さっきの話‥‥?」

 深山さんの雰囲気が変わるのを感じ、緊張が走る。流れからいって、さっきの話とは父が最後にしていたあの話だろうが、悪あがきでついはぐらかしてしまった。

「社長が言ってた『とりあえず付き合ってみたらいい』ってやつ。俺、実は亜子ちゃんのことがずっと好きだったんだ。このタイミングで言うのはずるいかもしれないけど、亜子ちゃんさえ良かったらとりあえずでも構わない。俺と付き合ってみてくれないかな?」

 ちょっとはぐらかした程度で流れが変わるはずもなく、私の悪あがきは失敗に終わった。
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