0.0001%の恋
「田中さんに好かれる勝算はあるの?」

「そんなの、あるわけないじゃないですか‥‥」

「だよなあ‥‥」

 深山さんに告白されていたはずなのに、いつの間にか、話が私の恋愛相談にすり変わってしまった。

 私と深山さんは同じ理由で恋愛がうまくいかなくて悩んでいる。私の相手はここにいないからまだいいが、深山さんの相手は他でもなく私なのだ。なのに私のことで一緒に悩んでくれている。

「深山さんだって勝算があったわけじゃないんですよね?それと一緒です。だから私が満足するまで、もう少しだけ田中さんの彼女っていう幸運を味わってもいいかなって。本当はもういい年だし、そんな余裕もないんですけどね?」

「じゃー俺も。もし亜子ちゃんが田中さんに見切りをつけたら、次は俺が同じ幸運を味わわせてもらおうかな?」

「そしたら益々私が行き遅れちゃうじゃないですか」

「大丈夫。亜子ちゃんが行き遅れたら、俺が責任をもってお嫁さんにしてあげる。一生大切にするって約束するよ」

 冗談みたいに話してるけど、多分半分は本気なんだろうなと感じる。冗談にすることで私が罪悪感を持たないで済むようにしてくれてるんだろう。深山さんは本当に優し過ぎる。

「それまでは今まで通り友達でいてくれる?」

「はい、深山さんがそれでいいなら」

「良かった、ギクシャクするのは苦手なんだ」

「深山さん、ありがとうこざいます」

「いや、こちらこそ、ありがとう。さっきはああ言ったけど、亜子ちゃんと田中さんがうまくいくといいなって本気で思ってるよ。なんやかんや言っても、亜子ちゃんが幸せな方が俺も嬉しいからさ。だから頑張って」

「はい、頑張ります」

 平日だし遅くなる前に帰ろうということになり、その日はそれで解散となった。

「お先に失礼します、お疲れ様でした」

「うん、またね。おやすみなさい」

 タクシー乗り場まで送ってもらい、深山さんに見送られて別れる。秘書室に異動してからは会社で会うこともなくなった。深山さんは『またね』と言ったが、次にいつ会えるかはわからない。

 田中さんじゃなく深山さんを好きになっていたら、私は今頃本当の幸せを掴んでいたのかもしれない。

 だけど田中さんに会う度に、好きだという想いは萎えるどころか増すばかりなのだ。好きになればなる程、田中さんとの温度差が広がるようで苦しくなる。

 この苦しさが好きを上回ったら、恋が終わるのだろうか?

 まだ、終わりたくない‥‥恋とは実にままならないものだ。
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