0.0001%の恋
 最後に橘さんに会ってからもうすぐ3ヶ月が経とうとしている。退職ではなく異動だったはずなので社内にはいるのだろうが、一度も見かけることはなかった。

 彼女は元気にしているのだろうか‥‥

 普段はあまり気にならないが、会議のためにこの会社を訪問すると、必ず橘さんのことが頭を過る。

 彼女に会いたい。会って謝りたい。

 その思いに囚われ続けた結果、俺が偶然橘さんに会える機会はどんなに待ってもやってこない、という結論に至った。

 偶然が無理なら、コネを使おう。

 コネとはもちろん橘のことである。噂の件で俺に悪い印象を持ったシスコンの橘が彼女に会わせてくれるかは微妙なところだが、これで無理なら多分一生会えない気がする。

『3ヶ月経っても罪悪感が拭えない、一度でいいから彼女に会わせて欲しい、どうしても会って謝りたい』

 電話で橘に頼み込み、ようやく会うチャンスをもらえた。

 3ヶ月前、最後に目にした彼女は明らかに怯えていた。

 この3ヶ月、彼女のことを思い出す度に浮かんでいたのはその時の彼女で、だからこそ罪悪感が募り続けたのだろう。

 だが今回は、俺が待っていたことに驚きはしたものの、朗らかな笑顔を見せてくれたのだ。

 たったそれだけのことで俺は救われた。

 もちろん当初の目的である謝罪はきっちりとさせてもらったが、彼女は俺をかばって優しい言葉をかけてくれる。

 こんなことにさえならなければ、彼女との楽しい思い出になっていたはずのランチを、彼女も嬉しかったと言ってくれて、更に俺のことがタイプなのかと指摘され、かわいい照れ顔まで披露してくれた。

 3ヶ月もの間悶々として過ごしていたというのに、こんなに幸せなことが続いていいのだろうか?あまりの落差に戸惑いを隠せない。

 緊張が一気に緩み、すすめられるまま酒を飲んでしまった。俺と同じペースで飲んでいた橘も、同様に酔っていたんだと思う。

 橘さんの前で余計な話をしてしまった気はするが、橘はもっと酷かった。

 完全に酒の勢いに任せて俺と橘さんを付き合わせようとして、強引に連絡先の交換までしてくれたのだ。

 一瞬で酔いが覚めた。会って謝罪ができればそれで満足だったはずなのに、このチャンスを逃すまいという欲が生まれてしまう。

 かわいい彼女をどうにかして自分のものにしたい‥‥帰宅後、俺は彼女の連絡先にメッセージを送った。

 彼女に拒否されたくない。いや、絶対に彼女を逃がしたくない‥‥

 そんなことを考えながら既読がつかないメッセージを眺め、俺は眠りについたのだった。
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