プロポーズは突然に
「うぅ〜〜ん、美味しいぃ、ふふ」



幸せが顔に出ちゃって、つい……のんびりしちゃってる。


あら、いけない。


起きるのが遅いから、朝は大慌てで支度を済ませなくちゃいけないわけで、時間との勝負がもう始まっていることをすっかりと忘れていた。



ゆとりある生活を送れない私の朝は、戦場みたいに大騒ぎと見慣れた光景。


昨日、呑みすぎちゃったから起きれなかった、これが私のお決まりの言い訳。


アイロンの線が台によく引っ掛かり、髪を上手く伸ばせずタイムロス。


無駄に大きいソファに足の小指をぶつけて悶絶《もんぜつ》。



朝っぱらから騒がしい生活を送るアラサー女子はいかがなものかと諦めムードの中、彼氏である亮は一足先に仕事へと出かけて行く。



私と正反対でしっかりとした彼の性格に惚れ、早二年近く経った今、未だプロポーズの言葉はない。



自分のだらしなさに呆れて何も言葉が出てこないまま、足許を見下ろすと、靴下に小さな穴が空いていた。


まただ……。


いつも母趾球《ぼしきゅう》のところだけが破けて、こんにちわと挨拶してくるのだけど、正直、顔も見たくないんだよね。



誰かに見られるわけでもないし、まだ使えるから履き続けちゃう私もどうかしてる。


だけど、まだ使えるからといって履き続けていた靴下も気付けばどこかへと消えてしまう。



何故、穴の空いた靴下だけ……


そう一瞬思うも、まっ、いっかと気にも留めない悪い癖が醜態《しゅうたい》を晒し続けていた。
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