失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
 プロローグ

 学校帰りに友人とカラオケに行き、その足でいつものファストフード店に寄った。
 先ほども友人とこの店に寄ったばかりだけど、もしかして今ならいるのでは、そんな期待がわずかにあった。

 汗だくになりながら階段駆け上がり、店内を見回す。
 彼と出会ったあの日以降、こうして彼の姿を捜すのが、もう癖になってしまっている。

(やっぱりいない。もう一ヶ月以上、会ってないんだよ……貴一《きいち》さん……会いたいよ)

 私はため息を呑み込み、階段をとぼとぼと下りた。
 なにも買わずにそのまま帰路に着く。
 駅から一人で電車に乗ると、ぼんやりと窓の外を見ながらスマートフォンでSNSのアプリを開いた。
 この1ヶ月、メッセージを送っていたのは私だけ。彼からはまったく届かなくなってしまった。
 じゃあまた──そんな言葉の可愛らしいスタンプが、最後のメッセージ。

 待っていたってメッセージが届くわけでもないのに、私はここのところずっと、こうして彼とのトーク画面ばかり見てしまっている。

(なんで、お店に来てくれなくなったの? 私が嫌いになった? ただで勉強を教わる図々しい女だって思った?)

 会えないのなら、いっそのこと告白しよう。
 きっぱり振られれば諦めもつく。連絡もなく、ただ彼を待つよりもよほどいいはずだ。

 そう決意したものの、先ほどからずっとトーク画面を開いたまま勇気が出ずに思いとどまっている。

『話があるので会いたいです』
『いつものお店で待っています』
『いつお店に来ますか?』

 そんなメッセージを書いては消す。

(直接会って言いたいけど、私たちの繋がりって、あの店しかないんだよね)

 彼を知ったつもりになっていたけど、知り合ってまだ数ヶ月。
 私は貴一さんが通う大学と名前、それに年齢くらいしか知らない。

(好きって、送ってみる……?)

 私の告白をいつ見てくれるかはわからないが、無視をするようなひどい人ではないし、きっと手が空いたときにでも返信してくれるはず。

 私は、スマホのメモ帳に告白のメッセージを書いていく。
 何度も失敗して、書き直していたら、ものすごく長文のメッセージになってしまった。

(うわ……これじゃストーカーみたい!)

 一度全部消して、真っ白な画面にもう一度文字を打つ。ただ、好きだと伝わればそれでいい。
 もし同じように私を好きでいてくれたなら、なんらかの返事があるだろう。
 もし私に対して恋愛感情を抱かなかったとしても、突然会えなくなった理由くらいは教えてくれるはずだ。

 私はメモを保存すると、乗り換えのために電車を降りた。

 そしてその日の夜。
 メモに保存したメッセージをSNSに貼り付けて、そのまま貴一さんに送信する。

『どうしてお店に来なくなったの? 会いたいです。貴一さんのことが好きなの。もし私のこと好きでいてくれるなら、返事をください』

 しばらくトーク画面を閉じずに待っていると、一分も立たずに既読マークがついた。
 私の緊張はピークに達する。
 こくりと喉が鳴り、瞬きもできずに画面をじっと見つめた。

(なんて返ってくるんだろう)

「ごめん」か「ありがとう」か。
 一ヶ月以上会えなかったからか、上手くいくような気は全然しない。
 どうしても悪い方向にばかり考えてしまっている。

 私はスマートフォンをテーブルに置くこともできずに、手に握りしめたまま落ち着かない時間を過ごした。
 アプリの画面を閉じることさえできない。

(どうして……返事、くれないの?)

 もしかしたら悩んでいるのだろうか。

 困らせてしまっただろうか。

 貴一さんからの返事を待つ時間が、とてつもなく長く感じる。

 けれど、結局、貴一さんからの返事は来なかった。

 返事がない。それが断りの返事の代わりなのだと、気づかないはずがなかった。

 少しは近づけたと思ったのは私だけ。
 恋心を抱いてしまったのも私だけ。
 貴一さんには、そんなつもり全然なかったのに。

(勝手に勘違いして……バカみたい)

 私は貴一さんに失恋したのだ。

 十七歳──私の初恋はなんとも呆気なく幕を閉じたのだった。

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