失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
 ただそれが、恋愛感情なのか、それとも四歳も年下の女子を妹のように可愛いと思っているだけなのか、いまいち判断がつかないのだが。

「じゃあ、告白でもなんでもすればいいだろうが」

 拓実は、不機嫌そうにふんっと鼻を鳴らして、私から目を逸らした。自分よりもモテそうな男の話が嫌なのだろうか。拓実に貴一さんの話をすると、いつも機嫌が悪くなる。

「告白かぁ……告白したら、上手くいくかな……」
「急に自信がなくなるな。さっきまでの勢いはどうした」
「いや、だってさ。大学の友だちとの写真とか見せてもらったんだけど、なんかみんな大人っぽくて、綺麗な人ばっかりだったから」
「そりゃそうだろうな」
「だから、私と会ってくれてるのも、妹みたいに感じてるだけかなって。あ、貴一さん、中学生の妹がいるの。その妹さんと被って見えてるのかなって思っちゃう。もしそうだったら、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃん?」
「まぁ、告ったら困った顔すんだろうな」
「そう! それ! そうしたら、恥ずかしくてもう会えなくなっちゃう」

 せめて同い年だったら、私がもっと美人だったら、と考え始めると、告白に二の足を踏んでしまう。告白をするなら、もうちょっと確信がほしいのだ。


 出会った初夏から本格的な夏になり、学校が夏休みに入ると、私も貴一さんも学校近くのファストフード店は利用しなくなる。
 私の実家は遠いから、貴一さんがいないのにわざわざ暑い中、行く必要がない。
 たまに連絡をしているのだが、どうやら貴一さんは家庭教師のアルバイトと勉強で毎日忙しいらしく、返事もメッセージを送った翌日……という場合が多かった。

 そうなると、連絡をしにくくなる。

 私は彼に家庭教師代を払っているわけではなく、彼の好意で教えてもらっているに過ぎない。当然、恋人でもないのに会いたいなどとわがままを許される関係でもないから、忙しいと言われてしまえばそれまでだ。


 そして待ち侘びた夏休み明けの八月下旬。
 私は始業式が終わったあと、ファストフード店に走った。

「はっ……はぁ、はぁっ」

 汗ばみ額に貼りついた髪を手で払い、二階席を見回す。

(いない……)

 私はがっくりと肩を落とし、一階に戻り注文を済ませた。
 エアコンが効きすぎている店内は、つい一分前まで汗だくだった私の身体から一気に熱を奪っていく。
 私は冷たくなった腕を摩りながらオーダーを済ませて、来たときとはまったく異なる重い足取りで二階席への階段を上がっていく。

(貴一さん……まだ忙しいのかな……)

 貴一さんとはもう二週間以上、連絡を取っていない。彼がいつからここに来られるのかも聞けていなかった。

 メッセージアプリを立ち上げては落として、メッセージを書いては消してを繰り返した。
 それまでは貴一さんもマメに連絡をくれていたのに、夏休みに入ってから一度も連絡がない。会いたいと思っているのは私だけだと突きつけられた気がした。

 あまりに頻繁に連絡をしてしつこいと思われるのがいやで我慢していたら、ずるずると時間だけが過ぎていた。
 でも私は、またここで会えると疑っていなかった。
 きっと休みの間は忙しいだけ。大学が始まれば、以前と同じ関係に戻れるはず。自分を慰めるためにそう思い込んでいたのだ。

 私は二階席を見回せる席について、買ったばかりの昼食を広げた。
 ポテトを摘まみ、ハンバーガーの包みを開ける。
 ハンバーガーを一口食べてから思い至る。

(っていうか、大学っていつまで夏休み?)

 それに今日は始業式で昼前に学校が終わった。
 貴一さんとの約束はだいたい十六時前後。この時間にここに来て会えるはずがなかったのだ。どうしてそこに思い至らなかったのか。

(これだから拓実にバカって言われちゃうんだろうなぁ)

 メッセージが来なくても、この店に来れば彼に会えると思い込んでいたのだ。
 偶然が三回も続いたから運命的なものを、この店と彼に感じていたのかもしれない。

 私は意を決して、貴一さんに久しぶりにメッセージを入れることにした。
< 12 / 85 >

この作品をシェア

pagetop