失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「それで成績が悪くなって、あの男にアホだと思われても知らねぇぞ」
「貴一さんはアホとか言わないし……」
「だといいがな。ほれ、さっさとやれ」
丸めたテキストでぽこんと頭を叩かれて、渋々、教科書に向き合う。
けれど、お客さんが二階に上がってくる度に私の視線はそちらを向いてしまう。
一時間も経つ頃には拓実は呆れて席を立った。
「拓実?」
「今日はやめよう、テスト終わったばかりだしな。たまには勉強しないでカラオケでも行こうぜ」
「え、ちょ、待ってよ~」
私は慌てて通学バッグを持って、拓実を追いかけた。
カラオケにつき、二人で部屋に入った。
早速とばかりに流行の歌を拓実が入れて、そのあと、私がこれまた流行の恋愛ソングを入れる。
歌詞の中にある〝避けられているのかもしれない〟〝私に会いたくないの〟〝ほかに好きな人ができたの〟という部分にやたらと熱が入ってしまう。
「お前……重い」
歌い上げてマイクを置いた私に、拓実が呆れ声で言った。
「いいじゃない! ただの歌だよ!」
「だから俺は言っただろうが。遊ばれてるだけだって」
悔しさで涙が滲む。拓実の順番が回ってきたけれど、彼はマイクを取らずに真剣な眼差しを私に向けた。
「うぅぅ~そんなこと言わないでよ……」
「深入りしなきゃ、そんなに傷つかずに済んだんだぞ」
たしかに、貴一さんからすれば私なんて四歳も下だし、たくさんいる彼を好きな女性の中の一人でしかない。
好きにならなければと思っても、もう遅いのだ。
「……そんな人じゃないって思ったんだもん」
「そんな人だったんだろ」
拓実に言われても、なにか理由があるはずだと思いたい自分がいるのだ。
「どうして来ないんですかって聞いてみたらだめかな……」
「もう諦めろよ。あまりにしつこく連絡したらストーカーだと思われるぞ」
「ストーカーじゃないもん!」
拓実のストーカー呼ばわりに泣きたくなる。
毎日、彼からの連絡はないかとメッセージ画面をチェックしては、拓実からのメッセージでがっかりする始末だ。
最後のメッセージは、九月の終わり。
顔を合わせなくなって三ヶ月が経った。私が貴一さんに勉強を教えてもらった期間よりも長い間、もう彼と会っていない。
貴一さんは、私よりずっと頭がいいし、目指すところも違う。
お母さんに聞いたら、国家公務員試験はトップレベルの大学を卒業するような人でも簡単に合格できるようなものではないらしい。
これ以上、私が彼に付き纏えば、本当に邪魔になってしまうし、拓実の言うとおり、ストーカーと呼ばれてもおかしくない。
「夏の間に恋人ができたのかもしれないだろうが」
十分にあり得そうな話を聞かされ、私が耳を塞ぐとその手を外された。
「そもそも、だ。タダで勉強を教えてもらってんだから、向こうがこれ以上は面倒見きれないって思ってもおかしくない。お前、これからも毎回定期テストで世話になる気でいたのか? それは図々しすぎるだろ」
「わかってるよ……貴一さんが優しいから甘え過ぎてたって。でも、しょうがないじゃん、勉強しか繋がりがなかったんだから」
こらえきれずに目の縁に溜まっていた涙がこぼれた。
拓実は慌ててポケットから取りだしたぐしゃぐしゃのハンカチを私の頬に押し当てた。
「あ~もう、泣くな! だったら当たって砕けてみればいいだろ!」
「砕けちゃだめじゃない?」
「……だめじゃない」
「貴一さんはアホとか言わないし……」
「だといいがな。ほれ、さっさとやれ」
丸めたテキストでぽこんと頭を叩かれて、渋々、教科書に向き合う。
けれど、お客さんが二階に上がってくる度に私の視線はそちらを向いてしまう。
一時間も経つ頃には拓実は呆れて席を立った。
「拓実?」
「今日はやめよう、テスト終わったばかりだしな。たまには勉強しないでカラオケでも行こうぜ」
「え、ちょ、待ってよ~」
私は慌てて通学バッグを持って、拓実を追いかけた。
カラオケにつき、二人で部屋に入った。
早速とばかりに流行の歌を拓実が入れて、そのあと、私がこれまた流行の恋愛ソングを入れる。
歌詞の中にある〝避けられているのかもしれない〟〝私に会いたくないの〟〝ほかに好きな人ができたの〟という部分にやたらと熱が入ってしまう。
「お前……重い」
歌い上げてマイクを置いた私に、拓実が呆れ声で言った。
「いいじゃない! ただの歌だよ!」
「だから俺は言っただろうが。遊ばれてるだけだって」
悔しさで涙が滲む。拓実の順番が回ってきたけれど、彼はマイクを取らずに真剣な眼差しを私に向けた。
「うぅぅ~そんなこと言わないでよ……」
「深入りしなきゃ、そんなに傷つかずに済んだんだぞ」
たしかに、貴一さんからすれば私なんて四歳も下だし、たくさんいる彼を好きな女性の中の一人でしかない。
好きにならなければと思っても、もう遅いのだ。
「……そんな人じゃないって思ったんだもん」
「そんな人だったんだろ」
拓実に言われても、なにか理由があるはずだと思いたい自分がいるのだ。
「どうして来ないんですかって聞いてみたらだめかな……」
「もう諦めろよ。あまりにしつこく連絡したらストーカーだと思われるぞ」
「ストーカーじゃないもん!」
拓実のストーカー呼ばわりに泣きたくなる。
毎日、彼からの連絡はないかとメッセージ画面をチェックしては、拓実からのメッセージでがっかりする始末だ。
最後のメッセージは、九月の終わり。
顔を合わせなくなって三ヶ月が経った。私が貴一さんに勉強を教えてもらった期間よりも長い間、もう彼と会っていない。
貴一さんは、私よりずっと頭がいいし、目指すところも違う。
お母さんに聞いたら、国家公務員試験はトップレベルの大学を卒業するような人でも簡単に合格できるようなものではないらしい。
これ以上、私が彼に付き纏えば、本当に邪魔になってしまうし、拓実の言うとおり、ストーカーと呼ばれてもおかしくない。
「夏の間に恋人ができたのかもしれないだろうが」
十分にあり得そうな話を聞かされ、私が耳を塞ぐとその手を外された。
「そもそも、だ。タダで勉強を教えてもらってんだから、向こうがこれ以上は面倒見きれないって思ってもおかしくない。お前、これからも毎回定期テストで世話になる気でいたのか? それは図々しすぎるだろ」
「わかってるよ……貴一さんが優しいから甘え過ぎてたって。でも、しょうがないじゃん、勉強しか繋がりがなかったんだから」
こらえきれずに目の縁に溜まっていた涙がこぼれた。
拓実は慌ててポケットから取りだしたぐしゃぐしゃのハンカチを私の頬に押し当てた。
「あ~もう、泣くな! だったら当たって砕けてみればいいだろ!」
「砕けちゃだめじゃない?」
「……だめじゃない」