失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
 慰めるための軽口とは言え、ちょっとひどい。
 そう思いつつも、私の気持ちはほんの少し浮上した。
 でもたしかに、現状がいやなら行動あるのみだ。拓実の言うとおり、いつまでも勉強で貴一さんを頼りにしてはいけない。
 好きなら好きだと伝えなければ。

(そうだよ……会う予定なんてないんだから、当たって砕けたっていいんだ)

 このままずっと会えないくらいなら、告白をしてすっぱり失恋した方がずるずる引きずらなくて済むかもしれない。

「わかった、私、告白する!」
「……そうかよ。じゃあ、帰るぞ。砕けたら慰めてやるよ」

 気づくと、ちょうどカラオケに入って一時間が経っていたようだ。
 拓実は伝票を持って部屋を出る。
 私は通学バッグを持って、彼の背を追った。

「なによ、応援してくれてもいいじゃない」

 ふてくされた顔でそう言いながらも、私の気持ちは浮上していた。
 勉強から離れて遊ぶ時間はかなり気分転換になったし、私に一つの決意を固めさせたのだから、拓実には感謝してもしきれない。

 拓実と駅で別れたあと、私はもう一度ファストフード店に寄った。
 もしかして、少し遅い時間ならいるのではないかと思ったのだ。

 でも、やっぱり彼の姿はなくて。

 そしてその日の夜。
 私は彼にメッセージを送った。

『どうしてお店に来なくなったの? 会いたいです。貴一さんのことが好きなの。もし私のこと好きでいてくれるなら、返事をください』

 メッセージは送ってすぐに既読になった。
 でも、一時間待っても、一日待っても、貴一さんからの返事は来なかったのだ。
 それが断りの返事の代わりなのだと、気づかないはずがなかった。

 振るなら振るで、「ごめん」の一言くらいあってもいいのではないか。翌日、泣きはらした目で学校に行き、苛立ち紛れに拓実に八つ当たりをした。

 そのあと、ファストフード店に行く勇気は持てなかった。
 十七歳の秋──私の初恋は呆気なく幕を閉じたのだった。


< 15 / 85 >

この作品をシェア

pagetop