失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
第二章
(やだ、もう。なんなの厄年? 先週、痴漢に遭って、今度はなに……っ!)
私は勤務先である愛小井《あいおい》幼稚園からの帰宅途中、自宅マンションに戻ることもできず、駅の近くにあるドラッグストアの店内を歩いていた。
(どうしよう、まだいる?)
私はドラッグストアでなにを買うでもなくカゴを持ち、男がいるかどうかを探った。
(いない、かな?)
違和感を覚えたのは、昨日、電車を降りてホームを歩いていたときだ。
キャップを被った、ラフな格好をした男性と目が合ったのだ。キャップで影になっていたから、目が合った気がしただけかもしれないが。
その男性がやたらと私をじっと見ているような気がして、慌てて目を逸らし、足早に改札を潜った。
そして今日、その男が改札手前で誰かを待つように立っていた。昨日と同じキャップを被っていたから、すぐに昨日の男だと気づいた。
男性は私と目が合うと、同じタイミングで改札を通った。そして私がどちらの方向に行くのかを確かめるようにじっとこちらを見てくる。
(やだ……っ、なに?)
なんとなくいやな感じがした私は、逃げるように駅ビル一階のスーパーに入った。時間を潰せば男がいなくなると思ったのだ。
しかし、スーパーで食材を買い外に出ると、私を待つように出入り口に男が立っていた。私が歩きだすと、男がこちらに一歩踏み出す。
(うそでしょ……どうしよう)
もしこのまま家に帰り、一人暮らしの自宅マンションを知られたらと思うと、帰ろうにも帰れず、仕方なくスーパーからドラッグストアに逃げ込んだ。そして今に至る。
(っていうか、あの人、昨日もいたよね。家を知られてたらどうしよう……怖い。こんなことで警察って呼んでいいんだっけ? でも、たまたまって言われたら、証拠もないし)
いつまでも店内をうろついているわけにもいかない。これでは私の方が不審者だ。
でも、ドラッグストアを出て、また男が立っていたらと思うと、足が竦んで動けない。
(気のせいだって、思いたいけど)
同じ駅を利用している人などそれこそたくさんいる。
改札で会ったのだって、スーパーの出入り口に立っていたのだって、ただの偶然かもしれない。
私はそう思い込むことにして、震えそうになる足を踏み出した。
なにも買わずに店を出るのは申し訳なかったが、万が一、男から逃げることになった場合、荷物は少ない方がいい。
店内側から自動ドアの外を見る。心臓の音が大きく頭の中で響いた。暑くもないのに、緊張で背中にも手にもじっとりと汗をかいている。
買い物を終えた客のあとを追うように私も外に出る。左右を見回すが、幸い、男の姿はなかった。
胸を撫で下ろし、周囲を注意深く見回しながら、そろそろと足を進める。
少し遠回りになってしまうが、なるべく明るいところを通りたい。路地は人も街灯も少ないのだ。線路沿いから帰ろうと、私は慌てて前を歩く買い物客を追った。
線路沿いを真っ直ぐ歩き、自宅の方へと向かっていると、その途中で前を歩いていた買い物客は道を曲がっていってしまった。
私はバッグからスマートフォンを取りだして、先週入れたばかりの痴漢撃退アプリを立ち上げた。周囲に人がいなくなったことで、自然と歩みが速くなる。
ようやくマンションの建物が見えてきて、ここまでなにもなかったことに胸を撫で下ろす。すると、急に横道から飛びだしてきた人とぶつかりそうになってしまった。
「きゃ……っ、す、すみませ……」
スマートフォンが手から滑り落ち、がつっと鈍い音を立てて地面に落ちる。もしかしたら壊れてしまっているかもしれないが、そんなことよりも早く家に帰りたかった。
慌ててスマートフォンを拾い顔を上げて、息を呑む。
(やだ、もう。なんなの厄年? 先週、痴漢に遭って、今度はなに……っ!)
私は勤務先である愛小井《あいおい》幼稚園からの帰宅途中、自宅マンションに戻ることもできず、駅の近くにあるドラッグストアの店内を歩いていた。
(どうしよう、まだいる?)
私はドラッグストアでなにを買うでもなくカゴを持ち、男がいるかどうかを探った。
(いない、かな?)
違和感を覚えたのは、昨日、電車を降りてホームを歩いていたときだ。
キャップを被った、ラフな格好をした男性と目が合ったのだ。キャップで影になっていたから、目が合った気がしただけかもしれないが。
その男性がやたらと私をじっと見ているような気がして、慌てて目を逸らし、足早に改札を潜った。
そして今日、その男が改札手前で誰かを待つように立っていた。昨日と同じキャップを被っていたから、すぐに昨日の男だと気づいた。
男性は私と目が合うと、同じタイミングで改札を通った。そして私がどちらの方向に行くのかを確かめるようにじっとこちらを見てくる。
(やだ……っ、なに?)
なんとなくいやな感じがした私は、逃げるように駅ビル一階のスーパーに入った。時間を潰せば男がいなくなると思ったのだ。
しかし、スーパーで食材を買い外に出ると、私を待つように出入り口に男が立っていた。私が歩きだすと、男がこちらに一歩踏み出す。
(うそでしょ……どうしよう)
もしこのまま家に帰り、一人暮らしの自宅マンションを知られたらと思うと、帰ろうにも帰れず、仕方なくスーパーからドラッグストアに逃げ込んだ。そして今に至る。
(っていうか、あの人、昨日もいたよね。家を知られてたらどうしよう……怖い。こんなことで警察って呼んでいいんだっけ? でも、たまたまって言われたら、証拠もないし)
いつまでも店内をうろついているわけにもいかない。これでは私の方が不審者だ。
でも、ドラッグストアを出て、また男が立っていたらと思うと、足が竦んで動けない。
(気のせいだって、思いたいけど)
同じ駅を利用している人などそれこそたくさんいる。
改札で会ったのだって、スーパーの出入り口に立っていたのだって、ただの偶然かもしれない。
私はそう思い込むことにして、震えそうになる足を踏み出した。
なにも買わずに店を出るのは申し訳なかったが、万が一、男から逃げることになった場合、荷物は少ない方がいい。
店内側から自動ドアの外を見る。心臓の音が大きく頭の中で響いた。暑くもないのに、緊張で背中にも手にもじっとりと汗をかいている。
買い物を終えた客のあとを追うように私も外に出る。左右を見回すが、幸い、男の姿はなかった。
胸を撫で下ろし、周囲を注意深く見回しながら、そろそろと足を進める。
少し遠回りになってしまうが、なるべく明るいところを通りたい。路地は人も街灯も少ないのだ。線路沿いから帰ろうと、私は慌てて前を歩く買い物客を追った。
線路沿いを真っ直ぐ歩き、自宅の方へと向かっていると、その途中で前を歩いていた買い物客は道を曲がっていってしまった。
私はバッグからスマートフォンを取りだして、先週入れたばかりの痴漢撃退アプリを立ち上げた。周囲に人がいなくなったことで、自然と歩みが速くなる。
ようやくマンションの建物が見えてきて、ここまでなにもなかったことに胸を撫で下ろす。すると、急に横道から飛びだしてきた人とぶつかりそうになってしまった。
「きゃ……っ、す、すみませ……」
スマートフォンが手から滑り落ち、がつっと鈍い音を立てて地面に落ちる。もしかしたら壊れてしまっているかもしれないが、そんなことよりも早く家に帰りたかった。
慌ててスマートフォンを拾い顔を上げて、息を呑む。