失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「すみません」
「謝らなくていい。瑠衣を放っておけるわけないだろう」
「そんな……私なんて、昔の知り合いってだけじゃないですか」
「知り合い? 俺は瑠衣と仲のいい友人になれたと思っていたけど」
貴一さんはやや不機嫌そうに言った。
どうして今になってそんなことを言うのだろう。
私の告白に返事をしなかったのは貴一さんだ。
私はメッセージを送ってから一時間以上スマホを離さず、ずっと祈るような気持ちで既読画面を見つめ続けていた。
既読になったのに、いつまで経っても貴一さんからの返事が入らず、仕方なくバスルームまでスマートフォンを持っていったくらいだ。
結果、手を滑らせ、たっぷり湯の溜まったバスタブに水没させて、電源すら入らなくなってしまったのだが。
母にはそりゃもう怒られて、古い機種しか買ってもらえなかったのは、苦い思い出だ。
あれから十年が経つ。
私からの告白をなかったことにしてくれているのだろうが、〝仲のいい友人〟と言われると気持ちはやっぱり複雑だ。
私は貴一さんを一度も〝友人〟とは思っていなかったから余計に。
「友人、ですか」
「最近、日本に帰国したばかりなんだ。瑠衣に会えて嬉しいよ」
その言葉にひどく傷つく私がいる。
もしかして、私の告白なんて貴一さんの頭の片隅にも残っていないのかもしれない。
そう思ったら悔しくて、あれだけ好きだったのは自分だけだと突きつけられたようで、目の前が真っ赤に染まった。
「私は……会いたくなんてなかったです……っ」
思わず声を荒げた私に、貴一さんは息を呑む。
我に返り手で口を押さえても、一度発してしまった言葉は取り消せない。
「あっ、ごめ……なさい」
いくらなんでも助けてくれた相手に失礼すぎだ。
咄嗟に謝ると、彼は気にしていないと首を横に振る。
「あ、あの……警察ってさっき言ってたけど……っ、ごめんなさい、聞こえちゃって」
私はわざとらしく明るい声を出して話題を変えた。
貴一さんもほっとしたようにそれに乗っかってくれる。
「あぁ、大学卒業後に警察庁に入庁した。アメリカの大学に研修に行って、そのあとは国際刑事警察機構……インターポールってやつだね。そのあとは警視庁勤務だったけど、つい最近異動になって、今は警察庁で組織犯罪対策部にいるんだ。まだ引き継ぎ中だけどね」
「すごいです。私、実は昔から警察官が大好きで……」
「知ってる。スーパーヒーローって言ってたからね」
彼は懐かしそうに目を細めて、私を見た。
あの頃もこんな風に笑って、私の話を聞いてくれていた。それを思い出すと、初恋の痛みの中にいまだ消えないなにかがあって胸が疼く。
「あぁ、そっか。話しましたよね」
「瑠衣は今、なにをしてるの? 幼稚園の先生?」
「はい」
貴一さんが、私の夢を覚えてくれていた。
それが嬉しいのに切なくもある。
私を覚えてくれているのに、ならばなぜ、あのとき。そんな恨みがましい思いに苛まれそうになる。
「夢を叶えたんだね」
「貴一さんも。警察庁ってことは、国家公務員試験に受かったんでしょう?」
試験勉強で忙しかったから、あの店に来なくなったのか。
あれから十年も経つのに、あのときのことを問い詰めたい心境に駆られてしまう。
「そうだよ」
「さすがですね。頭良かったですもん……あ、私の家ここなので」
マンションの前に着き、私が建物を指差すと、貴一さんは案じるような目をした。「一人で大丈夫だろうか」と心配してくれているのかもしれない。
あの頃からそういう彼の優しさを好意だと勘違いして、勝手に期待していた。私は過去の想いを振り切るように笑みを浮かべた。
「送ってくださり、ありがとうございました。あとご迷惑をおかけして申し訳ありません」
私の他人行儀な態度に気づいたのか、貴一さんが傷ついたような顔をする。
「謝らなくていい。瑠衣を放っておけるわけないだろう」
「そんな……私なんて、昔の知り合いってだけじゃないですか」
「知り合い? 俺は瑠衣と仲のいい友人になれたと思っていたけど」
貴一さんはやや不機嫌そうに言った。
どうして今になってそんなことを言うのだろう。
私の告白に返事をしなかったのは貴一さんだ。
私はメッセージを送ってから一時間以上スマホを離さず、ずっと祈るような気持ちで既読画面を見つめ続けていた。
既読になったのに、いつまで経っても貴一さんからの返事が入らず、仕方なくバスルームまでスマートフォンを持っていったくらいだ。
結果、手を滑らせ、たっぷり湯の溜まったバスタブに水没させて、電源すら入らなくなってしまったのだが。
母にはそりゃもう怒られて、古い機種しか買ってもらえなかったのは、苦い思い出だ。
あれから十年が経つ。
私からの告白をなかったことにしてくれているのだろうが、〝仲のいい友人〟と言われると気持ちはやっぱり複雑だ。
私は貴一さんを一度も〝友人〟とは思っていなかったから余計に。
「友人、ですか」
「最近、日本に帰国したばかりなんだ。瑠衣に会えて嬉しいよ」
その言葉にひどく傷つく私がいる。
もしかして、私の告白なんて貴一さんの頭の片隅にも残っていないのかもしれない。
そう思ったら悔しくて、あれだけ好きだったのは自分だけだと突きつけられたようで、目の前が真っ赤に染まった。
「私は……会いたくなんてなかったです……っ」
思わず声を荒げた私に、貴一さんは息を呑む。
我に返り手で口を押さえても、一度発してしまった言葉は取り消せない。
「あっ、ごめ……なさい」
いくらなんでも助けてくれた相手に失礼すぎだ。
咄嗟に謝ると、彼は気にしていないと首を横に振る。
「あ、あの……警察ってさっき言ってたけど……っ、ごめんなさい、聞こえちゃって」
私はわざとらしく明るい声を出して話題を変えた。
貴一さんもほっとしたようにそれに乗っかってくれる。
「あぁ、大学卒業後に警察庁に入庁した。アメリカの大学に研修に行って、そのあとは国際刑事警察機構……インターポールってやつだね。そのあとは警視庁勤務だったけど、つい最近異動になって、今は警察庁で組織犯罪対策部にいるんだ。まだ引き継ぎ中だけどね」
「すごいです。私、実は昔から警察官が大好きで……」
「知ってる。スーパーヒーローって言ってたからね」
彼は懐かしそうに目を細めて、私を見た。
あの頃もこんな風に笑って、私の話を聞いてくれていた。それを思い出すと、初恋の痛みの中にいまだ消えないなにかがあって胸が疼く。
「あぁ、そっか。話しましたよね」
「瑠衣は今、なにをしてるの? 幼稚園の先生?」
「はい」
貴一さんが、私の夢を覚えてくれていた。
それが嬉しいのに切なくもある。
私を覚えてくれているのに、ならばなぜ、あのとき。そんな恨みがましい思いに苛まれそうになる。
「夢を叶えたんだね」
「貴一さんも。警察庁ってことは、国家公務員試験に受かったんでしょう?」
試験勉強で忙しかったから、あの店に来なくなったのか。
あれから十年も経つのに、あのときのことを問い詰めたい心境に駆られてしまう。
「そうだよ」
「さすがですね。頭良かったですもん……あ、私の家ここなので」
マンションの前に着き、私が建物を指差すと、貴一さんは案じるような目をした。「一人で大丈夫だろうか」と心配してくれているのかもしれない。
あの頃からそういう彼の優しさを好意だと勘違いして、勝手に期待していた。私は過去の想いを振り切るように笑みを浮かべた。
「送ってくださり、ありがとうございました。あとご迷惑をおかけして申し訳ありません」
私の他人行儀な態度に気づいたのか、貴一さんが傷ついたような顔をする。