失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「いやじゃありません。お言葉に、甘えさせていただきます」

 私は素直に彼の好意を受け取ることにした。
 また貴一さんと会える。そのことに内心浮かれきっていることに気づかないふりをして、唇をきゅっと引き締める。

「よかった。じゃあ、念のため連絡先を交換してくれる?」
「あ、えっと……」
「どうしたの?」
「あの、私、十年前から、変わってないです。SNSのアカウント」

 貴一さんは「俺もだよ」と言って、その場で私にメッセージを送った。
 バッグに入ったスマートフォンが短く震える。SNSを開くと、トーク画面に新しく貴一さんとのやり取りが増えた。

(最後のメッセージは、あの告白だったんだよね)

 スマートフォンを水没させてしまったため、私の画面には十年前のメッセージは表示されていない。貴一さんはどうなのか。
 もし今、そこに私の告白が表示されているなら、あなたは今、それを見て、なにを思っているのだろうか。

 私が探るような目をしていたからか、貴一さんはスマートフォンから顔を上げて、どうしたのとでも言うように首を傾げた。

「あ、ごめんなさい。ちゃんとメッセージ入りました」
「よかった。じゃあ、また明日」
「明日?」

 仕事帰りに送ってくれるという話ではなかったのだろうか。
 そう思い聞くと、貴一さんはやや不機嫌そうな顔で私の頭をぽんと叩き、言い聞かせるような口調で言った。

「犯罪者に土日は関係ないよ」
「それは、そうですけど。貴一さんは予定とかないんですか? あの、デートとか」
「ないよ。瑠衣は? デートの予定があるの?」
「あるわけないです」
「だよね。もし恋人がいて、その男が今、瑠衣を一人にしてるんだったら、そんな男とは別れろと言ってるところだよ」

 貴一さんは熱の籠もった眼差しで私を見つめた。
 あの頃に感じた熱と同じものが彼の目に浮かんでいる気がする。けれど、あの頃の気持ちだって、結局は私の独りよがりだったのだ。

(いけない……また勘違いしそう)

 私に恋人がいようと彼には関係ないはずなのに、なんだか嫉妬されているような気分になってしまっていけない。
 彼はただ私を心配して申し出てくれているだけだ。おそらく職務的に被害者を放置できないだけだろう。

「明日の不動産屋は俺も付き合うよ。瑠衣に会ったのも久しぶりだし、ついでに食事にでも行こう。あ、ファストフード店じゃないけどね」

 どうして貴一さんは、私との思い出を楽しそうに語るのだろう。
 私にとっては苦しいばかりだ。優しかった日々を思い出すと、同じだけ、想いを受け入れられなかった悲しさに苛まれる。

 私は曖昧に笑い「ありがとうございます」と礼を言った。

「じゃあ、十一時頃に迎えに来るから、絶対に一人で部屋から出ないようにね」
「はい」
「もしなにかあったら何時でもいいから、俺に連絡して」
「わかりました……ありがとうございます」
「うん。明日のデート、楽しみにしてる」

 デートの言葉に目を見開くと、彼がしてやったりと言った顔で口元を緩めた。
 おそらく冗談なのだろうが、一度失恋した私からすれば冗談にならない。からかっているつもりかもしれない。けれど、そんな風にからかうのは、あまりにひどい。

(デートだなんて言って、そんなんだから私は……)

 好きになってしまった。彼の気持ちを好意だと勘違いしてしまったのだ。
 好きにさせておいて告白したら無視をするような男なのに、私はまた同じ想いに囚われそうになっている。懲りない自分に呆れてしまう。

「ほら、家に入るまでここにいるから」

 彼に促されて、私はマンションの建物に入った。
 昨日は振り返らなかったが、今日は二階の共用廊下からマンションの入り口を覗いた。
 彼は思ったとおりまだ入り口に立っていて、私が顔を覗かせたことに気づいたのか、軽く手を振ってくる。

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