失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
私も手を振り返して、玄関ドアの鍵を開けた。
ドアを閉めると、貴一さんの手の感触を思い出すように、左頬を手のひらで包む。
あの頃と同じように頭を撫でる手、頬に触れる手に、心がかき乱された。
翌日、約束の時間の五分前。
マンションの下に着いたと貴一さんからメッセージが入った。
とっくに支度を終えていた私は、大きめのバッグを手に姿見の前に立つ。
デートだなんて言うから、昨日の夜はなにを着ていこうかで迷いっぱなしだった。
不動産屋に行くんだからデートじゃない、と自分に言い聞かせたものの、ついスカートを手に取ってしまった自分が情けない。
彼に可愛いと思ってほしい。そんな気持ちがあの頃と変わらずにある。
仕事柄スカートはほとんど穿かないから、買うのは動きやすいパンツばかりになってしまい、働き始めてからはおしゃれもなにもあったものじゃなかった。
数年前に買ったスカートを引っ張りだしてきて、買ったばかりのトップスと合わせた。
鏡を見て、平凡を地で行く格好にため息が漏れる。今、思えば、高校の制服というものは最強だったなと感じる。誰が来てもそれなりに可愛く見えるのだから。
仕事で使える服ばかり買っていないで、こういう時のためにワンピースの一枚でも持っておくべきだった。
(帰ったら通販しよ)
また一緒に出かける約束ができるとは限らないのに、もう〝次〟を期待してしまっているなんて。私は鏡に映るにやけ顔の自分から目を逸らし、外に出た。
マンション前に出ると、スマートフォンを片手に貴一さんが立っていた。
Tシャツに細身のパンツというラフなスタイルなのに、モデルが撮影でもしているのかと思うほどに輝いている。
「おはよう」
「おはようございます。今日はすみません。よろしくお願いします」
「いや、俺が心配して勝手についてきてるだけだから。行こうか」
自然に手を差しだされて、私はその手をどうしたらいいかわからずに首を傾げた。
すると、貴一さんは噴きだすように笑って、私の手を取る。
「あ、あの」
「デートだから。ね?」
手を繋ぐのは当然だとばかりに言われて、困惑を隠せない。
彼がいったいどういうつもりで私と手を繋いでいるのか。まったくわからなかった。
「なんでですか!? それに私、手、汗かいてるかも……っ」
「俺もだよ。いやだったらごめんね。でも、例の男にどこで見られているかわからないから、瑠衣に恋人がいるって思わせた方がいいと思うんだ」
そう言われて、膨れ上がっていた気持ちがしゅんと沈んだ。
「……そうですか」
もしかして、私と手を繋ぎたいと思ってくれたんじゃないかと期待してしまった。
たしかに例の男に私の部屋が知られている可能性は高い。貴一さんを恋人だと思わせた方が相手は警戒するし、手を出しにくくなるだろう。
(そういえば、昔っからこういう思わせぶりなことする人だったよね)
高校時代、テストでいい点が取れるたびに、彼に頭を撫でてとねだっていた自分を思い出すと、なんとも言えない恥ずかしさが押し寄せてくる。
けれど、それをいやな顔一つせずに受け入れていた彼もどうかと思う。
恋愛経験のない女子高生にそんなことをしたら、呆気なく恋に落ちるに決まっているではないか。
だからと言って優しいだけの貴一さんを責めるつもりはない。
ただ、その優しさが私にだけ与えられるものではないことが切ないだけだ。
困っている人がいたら助ける。貴一さんは、私の大好きなスーパーヒーローになってくれた。でも、私だけのスーパーヒーローじゃない。
「瑠衣? やっぱりいやだった?」
「いやじゃ、ないですよ。ただ」
「ん?」
「貴一さんが優しいのは昔からですけど、こういうことを誰にでもしてたら、勘違いされちゃいますよ」
ドアを閉めると、貴一さんの手の感触を思い出すように、左頬を手のひらで包む。
あの頃と同じように頭を撫でる手、頬に触れる手に、心がかき乱された。
翌日、約束の時間の五分前。
マンションの下に着いたと貴一さんからメッセージが入った。
とっくに支度を終えていた私は、大きめのバッグを手に姿見の前に立つ。
デートだなんて言うから、昨日の夜はなにを着ていこうかで迷いっぱなしだった。
不動産屋に行くんだからデートじゃない、と自分に言い聞かせたものの、ついスカートを手に取ってしまった自分が情けない。
彼に可愛いと思ってほしい。そんな気持ちがあの頃と変わらずにある。
仕事柄スカートはほとんど穿かないから、買うのは動きやすいパンツばかりになってしまい、働き始めてからはおしゃれもなにもあったものじゃなかった。
数年前に買ったスカートを引っ張りだしてきて、買ったばかりのトップスと合わせた。
鏡を見て、平凡を地で行く格好にため息が漏れる。今、思えば、高校の制服というものは最強だったなと感じる。誰が来てもそれなりに可愛く見えるのだから。
仕事で使える服ばかり買っていないで、こういう時のためにワンピースの一枚でも持っておくべきだった。
(帰ったら通販しよ)
また一緒に出かける約束ができるとは限らないのに、もう〝次〟を期待してしまっているなんて。私は鏡に映るにやけ顔の自分から目を逸らし、外に出た。
マンション前に出ると、スマートフォンを片手に貴一さんが立っていた。
Tシャツに細身のパンツというラフなスタイルなのに、モデルが撮影でもしているのかと思うほどに輝いている。
「おはよう」
「おはようございます。今日はすみません。よろしくお願いします」
「いや、俺が心配して勝手についてきてるだけだから。行こうか」
自然に手を差しだされて、私はその手をどうしたらいいかわからずに首を傾げた。
すると、貴一さんは噴きだすように笑って、私の手を取る。
「あ、あの」
「デートだから。ね?」
手を繋ぐのは当然だとばかりに言われて、困惑を隠せない。
彼がいったいどういうつもりで私と手を繋いでいるのか。まったくわからなかった。
「なんでですか!? それに私、手、汗かいてるかも……っ」
「俺もだよ。いやだったらごめんね。でも、例の男にどこで見られているかわからないから、瑠衣に恋人がいるって思わせた方がいいと思うんだ」
そう言われて、膨れ上がっていた気持ちがしゅんと沈んだ。
「……そうですか」
もしかして、私と手を繋ぎたいと思ってくれたんじゃないかと期待してしまった。
たしかに例の男に私の部屋が知られている可能性は高い。貴一さんを恋人だと思わせた方が相手は警戒するし、手を出しにくくなるだろう。
(そういえば、昔っからこういう思わせぶりなことする人だったよね)
高校時代、テストでいい点が取れるたびに、彼に頭を撫でてとねだっていた自分を思い出すと、なんとも言えない恥ずかしさが押し寄せてくる。
けれど、それをいやな顔一つせずに受け入れていた彼もどうかと思う。
恋愛経験のない女子高生にそんなことをしたら、呆気なく恋に落ちるに決まっているではないか。
だからと言って優しいだけの貴一さんを責めるつもりはない。
ただ、その優しさが私にだけ与えられるものではないことが切ないだけだ。
困っている人がいたら助ける。貴一さんは、私の大好きなスーパーヒーローになってくれた。でも、私だけのスーパーヒーローじゃない。
「瑠衣? やっぱりいやだった?」
「いやじゃ、ないですよ。ただ」
「ん?」
「貴一さんが優しいのは昔からですけど、こういうことを誰にでもしてたら、勘違いされちゃいますよ」