失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「あぁ~どうしよう、本当にごめん……いやだったら殴っていいから」
彼はそう言って、私の頭抱えて引き寄せた。
逞しい胸元にぽすんと顔が埋まり、少しの汗の匂いと爽やかな柔軟剤の匂いがしてくる。
私はなにが起こったのかわからず動揺で動くこともできずにいた。
「あ、の……いやじゃないけど、困ります」
「いやじゃないの?」
彼は意外だとでも言いたげだ。それでも、私を離しはしなかった。
そのことに安堵しつつも、感情がうるさく騒ぐ。
いやじゃない。いやじゃないから、余計に困るのに、と。
彼は泣いた私を慰めようとしているだけだ。わかっていても、私はどうしたってそこに特別なものを期待してしまう。
触れる胸元から貴一さんの少し早い心臓の音が聞こえてきて、真上から振ってくる言葉がやたらと近い。
「困るって……言ってるのに」
「でもほら、涙は止まったでしょ?」
「あ……」
驚きすぎて、泣いていることさえ忘れていた。
私が指先で涙で濡れた頬を拭おうとすると、そのまえに貴一さんの顔が近づいてくる。思わず目を瞑ると、ちゅっと軽い水音が立ち、ふにゃりと柔らかい感触が目尻に触れた。
「大事な人を泣かせるなんて、最低だったね」
その感触が彼の唇だと思い至り、なんだかもう考えるのを放棄したい気分だった。
(なんで、キス)
ここまで思わせぶりな態度を取ることに対して、私は怒っていいと思うのだ。私の気持ちをわかっていて弄んでいるのなら最低だと。
私が勘違いしたとしても、そんな風に期待させる貴一さんがいけないのだと。
(私のこと、好きなの?)
そう聞きたいのに聞けなかった。
また失恋する勇気はない。
でも普通、好きでもない人の目尻にキスなんてしないし、好きでもない人と手なんて繋がないのではないか。そう考えてしまう。
昨日、変な男に抱き締められそうになったとき、心底、気色が悪かった。好きな人以外に触れられるなんて、想像もしたくない。
彼の気持ちは全然わからないし、私の期待する感情ではないのかもしれないが、おそらく好意は持ってくれているのだと思う。
「俺、自分でも驚くくらい、余裕がないみたいだ」
貴一さんは切なげな笑みを浮かべて、私から身体を離した。離れていく腕を名残惜しげに見つめてしまう。
「そんな顔しないで。家に連れ込みたくなるから」
「なん……っ」
言葉の意味を考えて、私の頬にぶわりと熱が籠もる。
なんてことを言うのだと羞恥に身悶えながらも、そうしてくれればいいのにと期待してしまう自分もいる。
「問題が全部片付いたらね」
優しい面立ちの中に彼が男なのだと感じさせる色香があって、私はそんな彼に魅入られたように動けなくなった。
「行こう」
手を引かれて我に返る。
私の頭の中は再会してからずっと、貴一さんでいっぱいだ。
昔以上に甘やかされて、すでに引き返すことができないほど、この恋に溺れてしまっている。
彼はそう言って、私の頭抱えて引き寄せた。
逞しい胸元にぽすんと顔が埋まり、少しの汗の匂いと爽やかな柔軟剤の匂いがしてくる。
私はなにが起こったのかわからず動揺で動くこともできずにいた。
「あ、の……いやじゃないけど、困ります」
「いやじゃないの?」
彼は意外だとでも言いたげだ。それでも、私を離しはしなかった。
そのことに安堵しつつも、感情がうるさく騒ぐ。
いやじゃない。いやじゃないから、余計に困るのに、と。
彼は泣いた私を慰めようとしているだけだ。わかっていても、私はどうしたってそこに特別なものを期待してしまう。
触れる胸元から貴一さんの少し早い心臓の音が聞こえてきて、真上から振ってくる言葉がやたらと近い。
「困るって……言ってるのに」
「でもほら、涙は止まったでしょ?」
「あ……」
驚きすぎて、泣いていることさえ忘れていた。
私が指先で涙で濡れた頬を拭おうとすると、そのまえに貴一さんの顔が近づいてくる。思わず目を瞑ると、ちゅっと軽い水音が立ち、ふにゃりと柔らかい感触が目尻に触れた。
「大事な人を泣かせるなんて、最低だったね」
その感触が彼の唇だと思い至り、なんだかもう考えるのを放棄したい気分だった。
(なんで、キス)
ここまで思わせぶりな態度を取ることに対して、私は怒っていいと思うのだ。私の気持ちをわかっていて弄んでいるのなら最低だと。
私が勘違いしたとしても、そんな風に期待させる貴一さんがいけないのだと。
(私のこと、好きなの?)
そう聞きたいのに聞けなかった。
また失恋する勇気はない。
でも普通、好きでもない人の目尻にキスなんてしないし、好きでもない人と手なんて繋がないのではないか。そう考えてしまう。
昨日、変な男に抱き締められそうになったとき、心底、気色が悪かった。好きな人以外に触れられるなんて、想像もしたくない。
彼の気持ちは全然わからないし、私の期待する感情ではないのかもしれないが、おそらく好意は持ってくれているのだと思う。
「俺、自分でも驚くくらい、余裕がないみたいだ」
貴一さんは切なげな笑みを浮かべて、私から身体を離した。離れていく腕を名残惜しげに見つめてしまう。
「そんな顔しないで。家に連れ込みたくなるから」
「なん……っ」
言葉の意味を考えて、私の頬にぶわりと熱が籠もる。
なんてことを言うのだと羞恥に身悶えながらも、そうしてくれればいいのにと期待してしまう自分もいる。
「問題が全部片付いたらね」
優しい面立ちの中に彼が男なのだと感じさせる色香があって、私はそんな彼に魅入られたように動けなくなった。
「行こう」
手を引かれて我に返る。
私の頭の中は再会してからずっと、貴一さんでいっぱいだ。
昔以上に甘やかされて、すでに引き返すことができないほど、この恋に溺れてしまっている。