失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
 第四章


 貴一さんと不動産屋巡りをしてから一週間が経った。
 すでに私は貴一さんと同居している。

『へぇ、それで一緒に暮らすことに、ねぇ』

 電話口で呆れ声を出すのは、十年来の友人、拓実。
 風呂から上がり髪を乾かそうとソファーに座ったところで、電話がかかってきた。私は肩にタオルを掛けたままスピーカーで通話している。

 食事に行かないか、という誘いにいろいろあって無理だと返し、ここ最近の事情を説明しての彼の一言だった。

(シャワーの音が聞こえるし、話していて平気だよね?)

 私は洗面所に視線を向け、スピーカーの音量をやや落とした。
 貴一さんの話を本人に聞かれるのはさすがに気まずい。そこには私の恋愛感情も絡んでくるから特にだ。

 彼は不動産屋に行ったその日のうちに布団一式を買い、スーツケースに一週分の着替えを詰めると、借りている公務員宿舎からうちにやって来た。
 仕事柄、二年に一度は異動があるため物を増やさないようにしているらしく、家に持って来た荷物は大きなスーツケースが一つだけだった。

『そいつ今、そこにいんの?』
「貴一さん? お風呂に入ってる」
『へぇ、あ、そう』

 拓実はなぜかものすごく不機嫌そうに言った。
 そして長く深いため息が聞こえる。

『お前、あいつのことまだ諦めてなかったんだな。びっくりだ』
「諦めた……つもりだったんだけどね。また好きになっちゃったみたい。拓実より、私が一番驚いてるよ」

 半笑いで言うしかなかった。
 一度振られているのだ。それを拓実も知っている。

『例の告白の返事について、聞いたのか?』
「今、私をどう思ってるのかさえ聞けないのに、昔のことなんて聞けるわけないよ」
『そうか……』

 彼は心配そうに息を吐きだした。

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