失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
 拓実には昔から心配をかけてきた。遊ばれているだけだからやめておけと言われたのに、拓実の言葉を聞き流していた結果、まんまと失恋。

 あのときも散々泣いて迷惑をかけたから、また不毛な恋愛を繰り返さなきゃいいと、私を案じてくれているのだろう。
 もしかしたら、また慰めるのは面倒だと思っているだけかもしれないが。

「やめた方がいいって思う?」
『そんだけ何年も好きなら、また振られるまで頑張ってみればいいじゃねぇの? もう止めねぇよ』
「へぇ、意外。拓実にしては優しいね。『バカか、お前は。また遊ばれるだけだぞ』とか言われると思ってた」
『本音ではそう言いたいけど』
「やっぱり」

 私はくすくすと声を立てて笑った。

『でも、遊ばれてたとしても、気持ちは変わらないんだろ? ま、こっぴどく振られたら、また俺が慰めてやる』
「ふふ、そのときはよろしくね。そうならないように頑張る」
『おぅ、そうしろ。……つか、お前らがくっついてくれないと、俺も諦めきれないしな』

 後半が耳に届かず聞き返すと、なんでもないと返された。

『さっきのストーカーの話だけど、本当に気をつけろよ。しばらくはあいつが一緒にいるにしても、引っ越し先は早めに探した方がいい』
「うん、わかってる」
『なにかあったら連絡しろ。たまには俺を頼れ。気が向いたら助けてやる』

 ふてくされたような声で言われて、優しいのに素直じゃない拓実に笑みが漏れる。何年経ってもそういうところが変わっていない。

「ありがと。友だちの心配ばっかりしてるから、拓実にはいつまで経っても彼女ができないのかなぁ。もう金髪じゃなくなったし、こんなに優しいのにねぇ」
『あ~もう、うるせぇ。初恋を引きずってるお前にだけは言われたくないわ!』
「あははっ、そう?」
『ストーカーの件が解決しててもしてなくても、来月辺りに一度会おうぜ。送り迎えは俺がしてやるから。それならいいだろ?』
「いや、でも悪いよ」
『頼れってさっきから言ってんだろ。わからない奴だな』
「えぇ、だって拓実の家からじゃ遠いでしょ」
『遠かろうが、お前になにかあって後悔するよりマシだ』
「……こんないい奴なのにどうして拓実に恋人ができないのか、ほんと疑問」
『だからうるせぇ。予定わかったら連絡しろよ? じゃあな』

 そう言って拓実からの電話は切れた。
 たしかに早めに引っ越し先は探した方がいいのだが。
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