失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
(オートロック付きで駅から五分以内で探すと、ここから遠くなっちゃうんだよね)

 私を狙ってのストーカーなのか、それとも無差別に女性を狙う変質者なのかはわからないが、引っ越しをするか男が捕まるかするまで安心して生活はできない。

 ここから離れたくないと思ってしまうのは、貴一さんとの繋がりを切りたくないからだ。
 引っ越してなんの不安もなくなったら、彼と一緒に暮らす理由はない。
 それにこんな偶然はもう二度とないだろう。
 だから、引っ越さなければと思いつつも腰が重くなってしまう。

(拓実には久しぶりに会いたいし、送り迎えしてくれるなら甘えちゃおうかな)

 顔を合わせるのも数ヶ月ぶりだ。話したいことはたくさんある。
 私はスマートフォンのスケジュールを確認しながら、顔をほころばせていた。
 拓実と話し、久しぶりに笑った気がする。男につけられる一件は、私にかなりのストレスをもたらしていたようだ。
 貴一さんが一緒にいてくれるときは安心できるものの、べつの意味でドキドキさせられてしまい、気が抜ける瞬間がなかったのだ。

「電話、拓実くん?」

 スケジュールを眺めていると、いつの間に風呂から上がったのか、タオルを頭にかけた貴一さんが、上半身裸の状態で私の隣に腰を下ろした。

(わっ、びっくりした……全然気づかなかった。変なこと、話してなかったよね?)

「あ、はい。今度ご飯に行こうって」
「そっか」

 私はちらっと横に目を向けて、すぐに逸らした。

「その格好で出てくるのやめてくださいって言ってるのに……」

 隣に座っているからジロジロと見ないで済んでいるが、上半身だけとはいえ、裸でいられるのは落ち着かない。

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