失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「ごめんごめん、つい癖で。お風呂上がったあと暑いし」
「エアコンつけて……って、貴一さん?」

 エアコンのリモコンに手を伸ばすと、急に手を取られて身体ごと引き寄せられる。

「わっ」

 ソファーから腰を上げかけていた私はバランスを崩し、彼の方へと倒れ込んでしまった。難なく私を受け止めた貴一さんは、私の頭を抱え込むようにして抱き締めてくる。
 ソファーに背を預けた彼の上にのしかかるような体勢は、非常に落ち着かない。すぐに退こうとするが、頭を抱えられているため動けなかった。

「も~急になんですかっ」
「抱き締めたくなっただけ」
「落ち着かないんですっ!」

 風呂から上がったばかりだからか、湿った肌の感触が頬にあたる。
 普段はワイシャツに隠れている均整の取れた身体が目の前にあって、胸元に頬が触れている状態だ。心臓が割れんばかりに激しい音を立てて、暑くもないのに彼と触れあっているところが汗ばんでくる。

 顔を少しでもずらせば貴一さんの胸元に口づけてしまう。
 もしかしたら、身動ぐふりをして口づけてもバレないのではないか、そんな下心が脳裏に浮かび、自分のはしたない妄想に頭の中が沸騰しそうだ。

 離してほしいのに、離してほしくなくて、私は彼の背中に腕を回すことも、拒絶することもできずにじっとするしかなかった。

「瑠衣……男と食事に行くの?」

 貴一さんはいじけたような口調で言った。
 まるで、拓実と私が会うことに嫉妬しているみたいだ。

「男っていうか、拓実です」
「拓実くんは男じゃなかった?」

 なんだか、自分の答えを試されているような気がしてくる。
 貴一さんは私になんて言ってほしいのだろう。

< 30 / 85 >

この作品をシェア

pagetop