失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「男性ですね」
「二人きり?」
「……そう、ですね」
「行き帰りは送ってもらうんだ?」
「はい……そうです、けど?」

 責めるような響きを孕んだ口調で告げられ、私は困惑するばかりだ。

「もし、拓実くんが心配だから一緒に住もうって言ったらどうする? 俺のときみたいに受け入れるの?」
「拓実はそんなこと言いません……っ」

 私は、貴一さんが好きだから一緒に暮らすのを受け入れた。
 万が一にもないが、もし拓実から同じことを望まれたとしたらきっぱりと拒絶する。

 でもそれを貴一さんに言えないのは、どうしてかと言われたら答えられないから。あなたが好きだからだと言えないからだ。
 貴一さんに好意を持たれている気がするのに、また振られるのではないかと考えると怖くて、なにも聞けない。

「ふぅん、そっか」

 貴一さんの目から笑みが消えて、私を抱き締める腕の力が強まった。

「ごめんね、こんな男で。でも、もう二度と離してあげられないから、諦めて?」

 ソファーがぎしりと音を立てて軋んだ。
 抱き締められたまま体重をかけられて、私はその勢いのまま後ろに倒れ込んでしまう。

「え、ちょ……貴一さんっ!?」

 気づくとソファーの上でのしかかられているような体勢になっており、左右に置かれた彼の肘に閉じ込められていた。

「えっと、あの?」
「ほかの男に君を渡したくない」

 切なげに言われて、真上から顔を覗き込まれる。私は息を呑み、言葉を紡ぐことさえできず、彼の瞳をただ見つめていた。

「俺を好きになってよ、瑠衣」
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