失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
 貴一さんは、驚いた様子で私の顔を覗き込んだ。
 まるで覚えがないという彼の顔を見ると、やっぱり悲しい。今は好きでいてくれても、あの頃は記憶にないくらいの取るに足らない存在だったと知らしめられているみたいで。

 あのときの私がどれほどの思いで告白したのか。
 会えなくなって、辛くて寂しくて、どんな気持ちでファストフード店で貴一さんをずっと待っていたのか、彼は考えもしなかったのだろうか。

「十年前、どうしてお店に急に来なくなったんですか?」

 私が聞くと、貴一さんは息を呑み、動揺したように目を揺らした。
 決まりが悪そうな顔を見ていると、なんらかの事情があったのだと察せられる。

「それは……忙しくて」
「私が、迷惑で非常識だったから?」

 高校時代、私はお金も払わずに彼に家庭教師をしてもらっていたようなものだ。大人になってからそんな自分の非常識さに気づいた。迷惑だと思われても仕方がないと思う。
 それが理由でなにも言わずに離れていったのだとしたら、私の告白に返事ができないのもわからないでもない。

「瑠衣のことを非常識だなんて思ったことはないよ。成績が上がったって喜んでいる瑠衣を見て、俺も元気をもらってたから」
「じゃあ、どうして?」

 その問いに、彼は押し黙った。

「私が、勉強を頑張ってたのは……貴一さんに会う口実のためです。勉強がしたかったんじゃないの。あなたに、会いたかっただけなの」

 当時の気持ちを思い出して、目の奧がつんと熱くなった。
 私は彼の膝から下りると、ソファーの上で膝を抱える。

「だから会えなくなって、悲しくて、このまま終わりたくなくて、告白しました」

 私は涙の滲んだ目を向けて、唇を震わせた。
 顔を上げて、貴一さんを見つめる。

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