失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「そういえば昔、調理実習で作ったとかでクッキーを持ってきてくれたことがあったよね」
「そんなことよく覚えてますね」
「そりゃ、瑠衣がしてくれたことを忘れるはずがないよ」
「あのときは見栄張って、綺麗に焼けたのだけを持っていったんですよ。みんなで失敗作を食べたので、ちょっと苦かったです」
「そうだったんだ」

 お菓子作りはわりと好きだから、何度も作っているうちに、温度や焼き時間は感覚でわかるようになった。今では失敗する方が少ない。
 そういえば昔、大量の失敗作を拓実にも食べさせたなと思い出した。

 グラスをテーブルに運んだ貴一さんがキッチンに戻ってきて、私の手元を覗き込む。

「はい、味見です」
「ありがとう」

 綺麗な市松模様のアイスボックスクッキーを一枚手に取り、彼の口に持っていくと、私の指ごとぱくりと咥えられた。

「甘くて美味しい」
「わざと指を食べないで……っ」
「わざとじゃないよ。瑠衣がもっとほしいな」

 そこは〝クッキーが〟じゃないのかと思っていると、貴一さんが皿を持った私ごと背後から抱き締めてくる。
 恋人関係になった彼は、私への態度が以前にも増して甘くなった。私はいちいちそんな彼に翻弄されてしまいドキドキしっぱなしだ。

「危ないですっ! クッキーが落ちちゃうっ」
「大丈夫、落とさないよ。あっちで一緒に食べよ」

 ひょいと皿が奪われ、手を引かれる。
 私はエプロンとミトンをつけたままだ。
 彼はテーブルにクッキーの皿を置くと、私を膝の上にひょいと抱えた。
 貴一さんの方を向いて、膝を跨ぐように座る体勢だ。彼は恋人関係になってから、私に触れるのをまったく躊躇しなくなった。
 しかも、私が恥ずかしがるのも想定済みなのか、しっかりと腰に腕が回されており、逃げられない。

「もう、なんでこの体勢なんですか……」
「食べさせてくれるんだよね?」

 貴一さんは有無を言わせない顔でにっこりと笑った。
 うちで一緒に暮らすと言ったときと同じ顔だ。
 彼がこの顔をするときは決して譲らないと、もう知っている。
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