失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「だって、恥ずかしい……落ち着かないし」
「俺だって瑠衣に触れてるときは、全然落ち着かないよ。忍耐力を試されてるし」
「忍耐力?」

 聞き返すと、彼はクッキーを一枚手に取り、私の口に押しつけてくる。一口で全部は入らず半分ほどを咥えていると、貴一さんの顔が眼前に迫っていた。

 彼は、私が咥えたクッキーの端を食べて、粉のついた唇の端を親指で拭った。

「もうちょっと、食べさせてくれる?」

 目をじっと見つめられると、頬が徐々に熱くなってくる。唇が触れそうな距離まで詰められるか、その意味を察して喉がこくりと鳴った。
 身体を重ねても、キスの予感がすればいつだって私の胸は激しい音を立てる。

 貴一さんは私の羞恥を見透かしたように、髪を優しく撫でた。そして後頭部をゆっくりと引き寄せられる。
 さくりと軽い音が立ち、柔らかいものが私の唇を掠めるように触れた。クッキーの粉のついた唇を舌で舐めとられ、啄むようなキスをされる。

「足りない」
「お昼ご飯、食べられなくなっちゃいますよ?」
「クッキーじゃないよ」

 熱を持った貴一さんの手が、私のスカートを捲り上げ、中に入ってくる。
 まだ朝なのにとか、今日は拓実と約束をしているのにとか、言いたいことはたくさんあるが、言葉を封じるように唇が重ねられると、もう彼の思うままだ。

 しかし、貴一さんの手が私の下着にかかったところで、仕事で使用している彼のスマートフォンがテーブルの上で振動した。

 彼はそちらに目を向けると、ため息をそっとつき、私の唇に掠めるようなキスを落とす。

「ちょっと待ってて」
「……はい」

 中途半端に捲り上がったスカートを直し、私はソファーに浅く座った。
 彼はスマートフォンを耳に押し当てて、寝室に行ってしまう。ドアが閉められて、中からはどこの口の言葉かわからないやり取りが微かに聞こえてくる。
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