失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
 しばらくすると、貴一さんは疲れた顔をして寝室から出てきた。なんとなく彼の表情で仕事が入ってしまったのだろうと察する。

 警察庁で働く彼は、現在、刑事局組織犯罪対策部で課長補佐の任に就いているらしい。
 彼からは詳しい仕事の内容は教えてもらえなかったが、海外にいる日本国籍の犯罪者の身柄引き渡しなどの調整を行う部署らしいとネットで調べて知った。

 貴一さんは、私が寝たあとのリビングで度々誰かと仕事の電話をしている。
 仕事だと判断したのは、その声の真剣さと会話が日本語じゃなかったからだ。英語のときもあるし、私にはわからないどこかの国の言葉のときもある。
 リビングから聞こえる彼の声に目を覚まし時計を見ると、深夜三時だったこともあった。翌朝、眠そうな貴一さんの顔を見て、初めて自分が彼に甘えきっていたと気づいたのだ。
 異動したばかりでまだ引き継ぎ中だから定時に帰れる、という話は貴一さんが私を安心させるためのうそだったのだろう。

「瑠衣、ごめん……今日一緒に行けなくなった」
「気にしなくて大丈夫ですよ、もともと拓実と二人で行く予定でしたし」
「だからいやなんだよ」
「ふふっ、拓実とは友だちだって知ってるじゃないですか」

 彼はなにも言わず、ぎゅっと私を抱き締めてきた。

「心配だから、ここまで迎えにきてもらって」

 貴一さんに助けられて以来、例の男性を見かけることはなくなった。
 諦めたのか、もしくは最初から私の気のせいだったのかはわからないが、もう危機は去ったと思ってもいいだろう。
 でも、貴一さんが心配してくれるのは嬉しい。

「わかりました」

 私がすぐに拓実にメッセージを入れると、彼は渋々といった様子で身体を離した。
 そしてTシャツを脱ぎ、アイロンのかかったワイシャツに袖を通す。背中に行きたくないと書いてある気がして、私は笑ってしまう。

「お帰り、待ってますね」

 私が貴一さんの背中に抱きついて腕を回すと、前に回した手を取られた。身体を翻した貴一さんが、私の顎を持ち上げて、貪るように口づけてくる。

「んん~っ!」
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