失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「明日から、お弁当作りましょうか?」
「いいの?」

 貴一さんは目を見開き、顔を輝かせた。

「もちろんです! いつも私ばっかりしてもらってるから、それくらいで喜んでもらえるならいくらでも!」
「俺はただ、瑠衣が心配だっただけだよ。してもらってるなんて思わなくていいんだ。この近くで男が逮捕されたって話は聞かないし、まだ警戒は緩めないこと。この近辺のパトロールは継続して行うように伝えておくから」
「はい」
「じゃあ、行ってくるね」

 彼は私の頬にキスを一つ落とし、玄関を出ていった。
 しっかり鍵を閉めてから時計を見ると、拓実との約束の三十分前だ。

(貴一さんはなにも言わないけど、絶対に無理してるよね)
(ほんとは、もう大丈夫って言った方がいいんだろうな)

 まだ、帰り道にあの男と遭遇したときの恐怖は残っている。だが、貴一さんにいつまでも私の時間に合わせてもらうわけにはいかない。

(でも、そうしたら貴一さんここから出ていっちゃうのかな)

 二人暮らしにすっかり慣れたからか、ここから貴一さんがいなくなると考えると寂しい。2Kとはいえ、狭いこの部屋では、ずっと一緒に暮らし続けるのもまた難しいだろう。

 考え事をしているうちに約束の時間になったのか、部屋のインターフォンが鳴った。拓実からの「着いた」というメッセージも入り、私は玄関に急ぐ。

「おはよ」
「おう、今日あの男、来られなくなったって?」
「も~あの男って言わないでよ。貴一さんは年上なんだから」
「癪だから名前を呼びたくない」
「なに言ってるの……」

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