失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
 玄関のドアにしっかり鍵をかけて、階段に向かった。
 そのとき、ちょうど上から住人が下りてきたため、私と拓実は邪魔にならないように端に寄った。

「おはようございます」
「……おはようございます」

 挨拶をすると、キャップを目深に被った住人が軽く頭を下げて、挨拶を返す。
 この天気だ。私も帽子を被った方がいいかもしれない。

「拓実、ごめん、帽子忘れちゃった。取ってきていい?」
「いいよ、すぐ気づいてよかったな」
「うん……取ってくるから待ってて」
「おう」

 私は玄関に引き返して、部屋の鍵を開けた。
 そろそろ出番かと先週洗っておいてよかった。ハンガーラックにかかっているはずの帽子を探すが、どうしてかそこにはなかった。

(あれ? そういえば、洗ったあと、どこにしまったっけ?)

 ほかの洗濯ものと一緒に取り込んだはずだが、片付けたのを思い出せない。探せばどこかにはあるだろうが、拓実を待たせているし今日は諦めるほかないだろう。

 私が帽子を持たずに部屋から出てきたからか、拓実が訝しげな顔をする。

「帽子は?」
「どこにしまったかわからなくなっちゃって」
「ふぅん、じゃあ日傘にすれば?」
「荷物になるから今日はいいや。もう行こう」

 部屋を出ると、拓実と共に駅に向かった。
 今日は少し足を伸ばして、郊外にある大型ショッピングセンターに行く予定だ。
 ランチまではまだ早い時間だが、着く頃にはいい時間になっているだろう。

「お腹空いた~」
「がっつりしたもん食いたいな」
「拓実はいっつもそれね」
「お前だって好きだろ、肉。まさかお前、あの男の前でベジタリアンを気取ってんじゃないだろうな。そういう無理はあとに響くぞ~」

 拓実にからかわれ、彼の頭を真後ろからチョップすると、デコピンが返された。
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