失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「貴一さんが今日来られなくてよかったかも。あることないこと彼に言いそうだし」
「俺はあることしか言わねぇよ」
「残念でした~一緒にお肉も食べてます~」
「そうかよ、無理してんじゃないならいいけど」

 ふいに真剣な声色で言われて、調子が狂う。

「私は無理なんてしてない。むしろ無理してるのは貴一さんの方だと思う」

 歩きながら事情を話すと、拓実は納得した様子で頷いた。

「そりゃ無理くらいするんじゃねぇの? まだ安心とは言い切れないんだから」
「だって……そうしたら、ずっと貴一さんに無理をさせちゃうじゃない。最近は夜中も仕事してるみたいだし、朝はすっごく眠そうだし……自分の家じゃないから身体も休まらないのかも」
「そう思うなら早く引っ越せば?」
「そうなんだけど」

 引っ越そうとは思っていた。
 ただ、貴一さんが納得する条件では難しいのだ。ならば、少し離れたところに引っ越せばと考えるたびに、この生活を手放すことに後ろ髪を引かれてしまう。

「お前ら……まさかまだ付き合ってないとか言わないよな?」

 そういえば拓実には交際を始めたことを話していなかったと思い出す。
 ただ拓実は、私と貴一さんが一緒に暮らしている時点でそうなると考えていたのか、付き合っていて当たり前だという顔をする。

「……付き合ってます」
「そうかよ。それならなんの問題もないだろ。この先も同棲するんだろうし、そこそこ家賃が高くてもいいじゃねぇか。駅近でセキュリティもそれなりのところを選べるだろ」

「……一緒に暮らそうとは言われてないよ」
「は? なんで? 好きだって言われたんじゃないのか?」
「言われたけど。今、一緒に住んでるのは仮だし、住民票だって移してないの。この先も一緒に住んでくれるかなんてわからないじゃない」
「さっさと聞けよ。それで解決すんだろ。なにぐだぐだやってんだ」

 呆れたように言われるが、女性から同棲を提案するのはなかなかハードルが高い。
 年齢的にも結婚を意識していると思われるだろうし、彼の気持ちを疑っているわけではないが、まだ交際して一ヶ月でそんな未来の話など出るはずもない。

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