失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「このあとどこから見る?」
「ん~そうだなぁ」
「あっつ……ここ肉料理のお店だからかな、エアコン効いてるけどけっこう暑いね」

 シャツの襟を引っ張り、風を取り込もうとすると、拓実の目がきつく細まった。

「お前な……二百グラムのステーキより、そっちのがだめだろ」
「そっち?」
「男の前で胸が見るような真似すんな。つか、なんか首のところ赤くなってないか?」
「え? なんだろ、かぶれたかな? べつに痒くないけど」
「ちょっと上向いて……あ、あ~いや、なんでもない」

 拓実が慌てた様子で私の首から目を逸らした。
 よほど赤くなっているのかと、バッグからスマートフォンを取りだし、自撮りモードにして首元を見る。そこには、出かける直前の行為でつけられた赤い痕が残されていた。慌てて首に手を当てても遅い。

「せっかく知らないふりをしててやろうと思ったのに。……牽制か」
「え、なに?」

 拓実は私の顔をじっと見つめて首を緩く振ると、深くため息をついた。なんとなくバカにされている気がして睨み返す。

「もう、なんなの?」
「重すぎて張り合う気も失せるって話だよ」
「意味がわからない。なんで拓実が貴一さんと張り合う必要があるの?」
「まぁお前はそういうやつだよなぁ。お、来た来た。あ~腹減った」

 ますます疲れたような顔をする拓実にどういう意味かと尋ねる前に、注文した料理がテーブルに運ばれてきた。
 鉄板はじゅうじゅうと音を立てており、肉の焼ける香ばしい匂いがふわりと香ると、空腹の腹が引き攣った。

「私もお腹空いた~! いただきます!」

 ぱんと手を合わせて、大きなステーキにナイフを入れる。そこまで高い肉ではないから、弾力があり口の中にいつまでも残るが、これはこれで美味しかった。
 拓実も私もあっという間に食事をすべて平らげてすぐに店を出る。遅い昼食に来た客でレストランは長蛇の列のため、長居できなかったのだ。

 レストランを出た私たちは気になるショップに足を運び、拓実はメンズものを、私はレディースものを見るため、店内入り口で別れた。
 この店はオフィスカジュアルが多く、普段ならばショーウィンドウを覗くことすらしないのだが、貴一さんと一緒に暮らすようになってから、それなりに格好に気を使うようになった。平日はおしゃれと無縁の格好なのは仕事柄どうしようもないが。

(ワンピースだと可愛いし楽だよね)

 ハンガーに掛かった夏用にワンピースを手に取り、鏡の前で自分にあてがう。マキシ丈のワンピースは触り心地のいいふわりとした生地がベースになっている。
 白に小花柄なんて仕事では絶対に着られないなと思いつつも、ワンピースの購入を決めた。

(ついでにサンダルも買っちゃおうかな。あ、下着もほしいかも)

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