失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
ジロジロと見ていたのがバレた気まずさで頬が熱くなる。ヤバい、どうしようと目を泳がせていると、彼は先ほどと同じように会釈をして去っていった。
階段を下りていく彼と行き違いに、拓実が階段を上がってきた。
軽く手を挙げて、トレイを私の前に置く。
「悪い、遅くなった……どうした? 顔赤いぞ」
「いや、まぁ、ちょっと、なんでもない」
なんでもなくなかったのだが、言いようのない感情を言葉にできなかった。
昨日、少し喋っただけ。目が合っただけ。会釈を返されただけ。
名前も年齢も知らない人なのに、あの人とまた会えるようにと祈ってしまっている。
それが恋の始まりだと気づかないほど、私は子どもではなかった。
テストは無事に終わったものの、数学の結果が芳しくなかった私は補習のための勉強をする羽目になった。
さすがにテストが終わった直後に、拓実を勉強に付き合わせるのは申し訳なくて、私は一人でファストフード店を訪れた。
もしかしたら、あの人とまた会えるかも。
そんな期待もほんの少しだけあった。
以前に会った席を見ると、そこにはすでに客が座っていた。
無意識にため息を漏らした私は、仕方なく別の席に腰を下ろした。
(今日はいないみたい……そうだよね、偶然が三回も続くわけないか……ざんね~ん)
規定の点数を取れなければ二回目の補習になってしまう。選抜クラスでも、一応進学校なので、試験はかなり厳しいのだ。
それが拓実に知られれば「バカか、お前は。同じ問題をやってるのになぜ間違えられるんだ?」と半笑いで言われるので、なんとしても合格をもぎ取らなければならない。
(集中しよ……集中!)
テスト問題を広げて、公式を暗記していると、斜め向かいの席に誰かが座った。
トレイをテーブルに置く音で顔を上げた私は、彼の顔を見て目を丸くした。隣に座った誰かは、私が会いたかった人である。
彼もまた、私と同じような顔をして私を見ていた。
美形の驚いた顔はちょっと可愛く見える。
まさか三度の偶然が続くなんて思ってもいなかった私は、彼との再会に感動するよりも驚きが勝ってしまって、ぽかんと口を開けていた。
しばらくの間目が合い、どちらもなにも言わない気まずさからか、彼はすぐに私から目を離そうとした。私はそんな彼を引き止めるように口を開いてしまう。
「よく、会いますね」
そんな言葉がつい口を衝いて出てしまった。
すると彼は、私の言葉に驚きながらも思わずといった様子で笑い、言葉を返してくれた。優しげな笑みを向けられると、壁が少し薄くなったような気がして嬉しくなる。
「俺もそう思ってた」
斜め向かいに座っているため、顔を上げるだけで自然と彼が視界に入る。
彼の視界に自分が入っていると思うと、途端に髪が乱れていないかが気になりだして、流した髪を指で軽く梳き、耳にかけた。
顔が赤くなってはいないか、アホ毛が出てはいないか、まさか目やになんてついていないよね──と、鏡を出してチェックしたい気分になるが、意識しているのがバレバレな行動を取るのは憚られた。
このままでは会話が終わってしまう。
なにか話さなければと口を開きかけたところで、彼が続けた。
「あ……っと、試験勉強? その制服、この近くの学校のだよね?」
「あ、えっと、あの、はい」
彼に少しでもよく見られたい、そんな気持ちでいた私は「テストは終わったけど、その補習なんです」という言葉を呑み込み、迷惑そうな返しをしてしまった。
会話を続けるどころか、これでは話しかけないでと言っているようなものである。彼の目が申し訳なさそうに細まり、私から逸らされる。
「ごめんね、邪魔しちゃって」
階段を下りていく彼と行き違いに、拓実が階段を上がってきた。
軽く手を挙げて、トレイを私の前に置く。
「悪い、遅くなった……どうした? 顔赤いぞ」
「いや、まぁ、ちょっと、なんでもない」
なんでもなくなかったのだが、言いようのない感情を言葉にできなかった。
昨日、少し喋っただけ。目が合っただけ。会釈を返されただけ。
名前も年齢も知らない人なのに、あの人とまた会えるようにと祈ってしまっている。
それが恋の始まりだと気づかないほど、私は子どもではなかった。
テストは無事に終わったものの、数学の結果が芳しくなかった私は補習のための勉強をする羽目になった。
さすがにテストが終わった直後に、拓実を勉強に付き合わせるのは申し訳なくて、私は一人でファストフード店を訪れた。
もしかしたら、あの人とまた会えるかも。
そんな期待もほんの少しだけあった。
以前に会った席を見ると、そこにはすでに客が座っていた。
無意識にため息を漏らした私は、仕方なく別の席に腰を下ろした。
(今日はいないみたい……そうだよね、偶然が三回も続くわけないか……ざんね~ん)
規定の点数を取れなければ二回目の補習になってしまう。選抜クラスでも、一応進学校なので、試験はかなり厳しいのだ。
それが拓実に知られれば「バカか、お前は。同じ問題をやってるのになぜ間違えられるんだ?」と半笑いで言われるので、なんとしても合格をもぎ取らなければならない。
(集中しよ……集中!)
テスト問題を広げて、公式を暗記していると、斜め向かいの席に誰かが座った。
トレイをテーブルに置く音で顔を上げた私は、彼の顔を見て目を丸くした。隣に座った誰かは、私が会いたかった人である。
彼もまた、私と同じような顔をして私を見ていた。
美形の驚いた顔はちょっと可愛く見える。
まさか三度の偶然が続くなんて思ってもいなかった私は、彼との再会に感動するよりも驚きが勝ってしまって、ぽかんと口を開けていた。
しばらくの間目が合い、どちらもなにも言わない気まずさからか、彼はすぐに私から目を離そうとした。私はそんな彼を引き止めるように口を開いてしまう。
「よく、会いますね」
そんな言葉がつい口を衝いて出てしまった。
すると彼は、私の言葉に驚きながらも思わずといった様子で笑い、言葉を返してくれた。優しげな笑みを向けられると、壁が少し薄くなったような気がして嬉しくなる。
「俺もそう思ってた」
斜め向かいに座っているため、顔を上げるだけで自然と彼が視界に入る。
彼の視界に自分が入っていると思うと、途端に髪が乱れていないかが気になりだして、流した髪を指で軽く梳き、耳にかけた。
顔が赤くなってはいないか、アホ毛が出てはいないか、まさか目やになんてついていないよね──と、鏡を出してチェックしたい気分になるが、意識しているのがバレバレな行動を取るのは憚られた。
このままでは会話が終わってしまう。
なにか話さなければと口を開きかけたところで、彼が続けた。
「あ……っと、試験勉強? その制服、この近くの学校のだよね?」
「あ、えっと、あの、はい」
彼に少しでもよく見られたい、そんな気持ちでいた私は「テストは終わったけど、その補習なんです」という言葉を呑み込み、迷惑そうな返しをしてしまった。
会話を続けるどころか、これでは話しかけないでと言っているようなものである。彼の目が申し訳なさそうに細まり、私から逸らされる。
「ごめんね、邪魔しちゃって」