失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「あいつ帰ってきてる?」
「ううん、やっぱりまだみたい。まだ連絡もないしね」

 部屋を見上げるとまだ電気はついていない。遅くなると言っていた通り、貴一さんは帰っていないようだ。

「送ってくれてありがとね」
「いや、ここ最近はなにもないとはいえ、用心に越したことはないからな。ちゃんと鍵をかけろよ?」
「わかってるってば。拓実も帰り気をつけてね」
「おう。部屋まで行かなくて大丈夫か?」
「大丈夫に決まってるでしょ。ここまで送ってもらってなにがあるっていうの」
「そりゃそうか。じゃあな」
「うん、またね」

 拓実と手を振って別れ、私はマンションの階段を上った。
 歩き疲れているからか二階までの階段がいつもよりも辛かった。
 ようやく部屋の前に着き、バッグから鍵を出していると、三階から誰かが階段を下りてくる足音が聞こえた。

 たたたっと軽く走るような音が聞こえてきたため、私は急いで部屋の鍵を開ける。
 マンションの住人だろうし、誰でも彼でも警戒しすぎだとは思うが、以前より知らない男性に対して恐怖を覚えてしまう。

 私は身体を滑らせるように室内に入り、すぐさま鍵をかけた。カチャンと金属音が鳴り、ほっと息をつく。
 玄関の明かりをつけて靴を脱いでいると、上から聞こえてきた駆け足がいつの間にか聞こえなくなっていた。

(立ち止まったのかな?)

 音を立てないように覗き窓からそっと廊下を窺い見た。
 覗き窓から見える範囲には誰もいない。だが、その直後、階段を上がっていく足音が聞こえてきた。

(あれ? さっき下りてきたよね?)

 ポストを見るために下りてきて、すぐに戻ったのだろうか。
 ドアの開閉音が聞こえたあと、うちの上からカタカタと足音が聞こえる。真上の住人だったようだ。

(そういえば、ちょっと前に男の人が引っ越しの挨拶に来たっけ)

< 52 / 85 >

この作品をシェア

pagetop