失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
 今日は朝から晴れていたが風はほとんどなかった。だから余計に暑かったのだ。
 洗濯ものを取り込んだ際、ハンガーにかけてあるワイシャツもタオルもおかしな風に引っかかってもいなかった。
 風に飛ばされたと考えるならば、ショーツ以外になくなったものがないことが不自然だ。

 思わず、こくりと唾を飲み込み、ベランダを見る。
 ここは二階だ。泥棒だとしたら犯人はどうやって盗んだのだろうと考えて、ぞっとする。
 一階からなにかを伝い上がってきたか、はたまた屋上から下りてきたか、そのどちらかだろう。

 例の男性とは別件だろうか。
 たまたま下着泥棒が現れて、たまたま変態に狙われたと考えるよりも、どちらも同一人物の仕業だと考える方が自然な気がする。

(やっぱり、住所知られてた……とか?)

 急に一人でいることが怖くなり、粟立った両腕をさすった。
 早く貴一さんが帰ってきてくれればいいが。ベランダでかたんとなにかの音がするたびにそちらに目を向けてしまう。

(風の音だよ……風! そうに決まってる!)

 なんの音もしない室内が怖くて、テレビをつけた。騒がしいバラエティを見るとほんの少し気分が落ち着いてくる。

(玄関、鍵かけたよね。大丈夫だよね)

 立ち上がり、玄関の鍵を確認する。
 念のためチェーンもかけて、仕事中に申し訳ないと思いつつも、帰る前に連絡がほしいと貴一さんにメッセージを送った。
 なにかあったのかと心配するといけないから、詳細は書かなかった。

 彼にメッセージを送った直後、今度は玄関の方でもカタンと音がした。

「……っ」

 肩が震えて、鍵もチェーンもかかっているとわかっていても、恐怖心は拭えない。ばくばくと激しく鳴る心臓の音が頭の中に響いている。
 じっと目を凝らして玄関を見つめていると、白い封筒のようなものがドアポストから玄関に落ちた。
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