失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
(明日からお弁当を作るって言ったけど、いつまで作れるかな)

 誤解が解けて恋人関係になり、二人の生活が思っていた以上に楽しかったからそれを手放したくないと思ってしまう。でもそれは私のわがままだ。

 私はスマートフォンで不動産屋のホームページにアクセスした。
 中目黒や品川近辺で探すのをやめて通勤一時間圏内に指定すると、条件に合う物件がざっと数十件は表示される。
 築年数十年以下で六万円台の物件もあるしオートロック付きも少なくない。

(通勤約一時間か……仕方がないよね。駅近くならマンションまで帰るのも明るい道が多いだろうし)

 もう大丈夫だろうと思った矢先にこんな手紙が届いて、今までと同じ生活を送れるとは到底思えない。たとえ十五分の距離でも、一人で夜道を歩きたくはなかった。

(引っ越しまでの間は、しばらく実家に避難しよう)

 実家から職場までは一時間半ほどかかる。それでもこの部屋に住み続けるよりもマシだ。
 部屋を知っていて、なおかつ貴一さんと一緒に暮らしているのも知られているのなら、男の悪意が貴一さんに向かう可能性だってある。

(それだけは、いや)

 私は、スマートフォンに表示されている不動産会社を調べて、メモに入れておく。
 明日、朝一で不動産屋に行って、ネットで調べた物件に空きがなくても、同じ条件で探してもらおう。そして引っ越しが決まるまでは実家で暮らすと貴一さんに話せばいい。

 そうこうしているうちに時刻は深夜を回っていた。

 貴一さんの帰りを待ちながらテレビを観ていると、突然、窓の外からどんっとなにかが落ちたような大きな音が響いた。
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