失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「な、なに……っ?」

 近くで事故でも遭ったのだろうか。それにしては音が近かったような。

(まさか、ベランダになにか落ちた?)

 私は立ち上がり、恐る恐る寝室のドアを開けた。
 寝室は電気を消しているため真っ暗だが、ベランダの向こうでなにかが光った。
 眩しさに目を細めると、遮光カーテンの隙間から見えるその光がベランダの鍵の辺りを照らしていることがわかる。
 ガサガサとなにかが動く音が聞こえてきて恐怖で足が竦んだ。

(うそでしょ……まさか、あの男が……!?)

 力任せに窓を開けようとしているのか、ガラス窓がぎしっと軋む音がする。カーテンを締めているせいで人の動きが見えないから余計に怖い。
 このとき自分が冷静であれば、警察に連絡をしなければと思い至ったはずだが、慌ててダイニングキッチンに戻った私は震える手で貴一さんに電話をかけていた。

 呼び出し音が数コール鳴り、彼が出るのを待つ間が一時間にも二時間にも感じられた。早く、早くと焦りながらもベランダへの意識は外さない。
 窓の向こうからは、軋む音ではなく、なにか鋭いもので窓を叩きつけているような音が聞こえてくる。がしゃんと窓が割れた音が響き恐怖で身体が強張るが、風でカーテンが揺れただけで誰かが入ってきた気配はなかった。

 そのとき、玄関からがちゃがちゃと音がして、私の恐怖はピークに達した。同時に、スマートフォンから彼の声が聞こえて、涙が溢れる。

『瑠衣? もう今……』
「貴一さっ、助けて、助けてっ」
『わかった。すぐ行くから』

 がちゃんとドアが開いた音がして、私は頭を抱えて、蹲った。

「いやぁっ」
「瑠衣っ! チェーン外して!」

 スマートフォンと玄関から同じ声が聞こえて、ようやく我に返る。
 男が玄関からも入ってこようとしているとパニックになったが、よく考えれば、ベランダと玄関のどちらにもいるわけがない。
 私はめそめそと泣きながら、玄関に向かい、震える手でチェーンを外した。
< 58 / 85 >

この作品をシェア

pagetop