失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「貴一さんっ」

 思わず、腕を伸ばし抱きつくと、彼は驚いたように私を受け止めた。

「なにがあった?」
「あっち……っ、窓……割れて、人が」

 ベランダを指差しながら訥々と言うと、貴一さんは玄関の鍵をかけてから、安心させるように私の肩を叩いた。

「瑠衣、警察を呼べる?」
「う、うん」

 スマートフォンを割れんばかりに握りしめている私の手をゆっくりと開き、彼は室内に鋭い目を向けた。
 玄関を上がり、音を立てないように寝室に入っていく。私は110通報しながらも貴一さんから視線を外さなかった。

 電話はすぐにつながり、誰かがベランダに侵入していることを伝える。窓を割られたと伝えると、すぐにその場から逃げるように言われた。
 そのとき、窓を勢いよく開けた貴一さんの声と、誰かの呻くような声が重なって聞こえてくる。

「暴れるな!」
「やめろっ、やめろぉっ! 恋人の部屋に来てなにが悪い!」
「誰が恋人だ、勘違い野郎が!」

 貴一さんの口から殺気立ったような声が聞こえて、自分が言われているわけでもないのに背筋が寒くなった。

「布製のガムテープある!?」

 貴一さんが大きく呼びかける声がして我に返った。

「あ、ありますっ」
「ベランダに転がしてくれる? あ、こっちには来なくていい!」

 私の名前を呼ばなかったのは、男に聞かせたくなかったからだろう。
 ベランダからそう聞かれて、私はガムテープを手に取った。
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