失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「わかりました」
来なくていいと言われたけれど、ガムテープをベランダに向けて上手く転がす自信もなく、数メートル離れたところから転がした。
開けた窓からベランダにうつ伏せで転がる男の顔が見える。
私を待ち伏せしていた男に間違いなかった。駅のホームでも、スーパーやドラッグストアでも見た顔だ。
でも、話した覚えもないのに、男がなぜ私を〝恋人〟だと言っているのか理解に苦しむ。
そうこうしているうちに、パトカーのサイレンが近づいてきて、そのすぐあとマンションの階段を駆ける音が響いた。
ようやく警察が到着したのだろうと、私は玄関ドアを開ける。
「ベランダにいます。知人が押さえてくれていますから……」
「わかりました。あとで詳しい話を聞かせてもらいますが、あなたは念のため女性警察官と外にいてください」
「わかりました」
マンションの廊下に出て、立っていた女性警察官と共に階段を下りた。その途中、警察官が叫ぶ声と男のわめき声が響き渡る。
「離せっ! 離せぇっ!」
「おとなしくしろ! 住居侵入の現行犯だ!」
マンションの住人にも男の声が聞こえていたのか、何事かと窓を開ける住人、ベランダから顔を出す住人が何人もいた。皆、通りに停まっているパトカーに驚いたのか、そのまま野次馬と化している。
しばらくすると、マンションから貴一さんが出てきた。
「貴一さんっ! 大丈夫でしたか!? 怪我は!?」
「大丈夫。なんともないよ」
彼はひらひらと身体の前で両手を振った。