失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「こんなときに恋人を一人放っておく男だと思われてるの?」
「ち、違いますよっ! だって、仕事で疲れてるじゃないですか!」
「仕事で疲れていたって、俺にとっての一番は瑠衣なんだよ。ほら、散らばったガラスだけ片付けて、今日はもう休もう」

 頭をぽんぽんと軽く叩かれると、ダイニングに足を踏み入れる貴一さんに私も続いた。

「これ、すぐに交換してくれたらいいな。明日、不動産屋に掛け合って手続きしよう」
「はい……」

 寝室のガラスの飛散は警察官から聞いていた通りそこまでひどくなかったが、ガラスには使い物にならないほどヒビが入ってしまっている。このまま使い続けるのは困難だ。
 明日はちょうど不動産屋に行くつもりだったし、あんなことがあってこの部屋に住み続けたいとは到底思えない。

「貴一さん、私、明日、部屋を決めちゃいますね。職場から一時間圏内で探したら、オートロック付きで駅近の物件があったので」
「うん、そうしようか。ああいう犯人は執着心が強い。また戻ってくる可能性もあるし、ここにはいない方がいい」

 貴一さんはなんでもないことのように言った。
 離れるのを寂しいと思っているのはどうやら私だけのようだ。

(いい大人だもん……べつに別れるわけじゃないんだから)

 室内の掃除を終えると、もう時刻は朝の四時を回っている。
 貴一さんに風呂を使ってもらい、その間に私は、ベッドにガラスが飛んでいないかを念のため確認する。

「明日……もう今日か。不動産屋に行くまで寝よう」
「ですね」

 貴一さんは当たり前のように私のベッドに入った。交際を始めてからは一緒に寝ている。
 私も彼の隣に寝転がると、腕が身体に回され、心地好い重さにまぶたが重くなってくる。
 疲れていたのか、隣からは深い息遣いがすぐに聞こえてきた。彼の息遣いに耳を傾けているうちに、私もすとんと眠りに落ちた。


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