失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「俺以外の友人たちが、皆、必死に夢を掴もうとしているように見えたんだよ。だから、官僚の道を選んでもさ、俺みたいにやる気のない奴に来られても迷惑じゃないかなってね。俺は、なんでもそれなりにはできるんだけど、その分、のめり込めることも少ないから」
「ちょっと、そんな雰囲気はありましたね」

 あのとき、国家公務員試験を受けると彼から聞いたが、その世界に対しての憧れのようなものは感じられなかった。それに、彼には焦りもなかった気がする。

 私からすれば、頭のいい人は国家公務員試験に受かるのも当たり前なのだと尊敬ばかりだったけれど、彼なりに悩んでいた時期だったようだ。

「あのとき、もういっそのこと、何もかもを捨てて世界一周の旅でもしてみようかと思ってたんだよ。そうしたら本当に好きななにかを見つけられるかもしれないって」
「世界一周! それはそれで楽しそうですね!」
「ははっ、瑠衣ならそう言うと思った」
「あのとき、警察官への憧れを語る瑠衣を見ていて……この子に、君にその目を向けられたいって。憧れてもらえるようになりたいって思ったんだよ」
「え、えぇっ!? 私!?」

 そこに繋がるのかと、私は驚きのあまりベッドに腕を突き、身体を起こした。
 なにも身につけていないため肌が露わになり、誰も見ていないのにそれを隠すように、ふたたび彼の腕に囚われる。

「そうだよ。瑠衣に好かれたくてさ。頼まれもしないのに勉強教え始めちゃって……ウザくなかった?」
「ウザくなんて! 嬉しかったです。私も……貴一さんに褒めてほしくて、好きじゃない勉強を頑張ってたので」
「そっか」
「ってか、私が警察官に憧れてるって言ったから、警察庁に?」

 私が聞くと、貴一さんは見蕩れてしまうほど綺麗な顔で笑った。
 そして正解だとでも言うように、軽く唇を啄まれる。

「現場で働きたかったから地方公務員になろうと思ったんだけどね。とりあえず受けるだけ受けてみろと親に言われて、なんだかんだと警察庁に入庁したんだ。今はそれでよかったと思ってるけど、これから先も異動が多いのがね」
「二年くらいは警察庁で働けるんですか?」

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