失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
 異動だとしたら、今度はどこなのだろう。
 再会したときに久しぶりに帰国したと言っていたから、海外もあり得るのだとしたら、ただの恋人である私は彼についていけない。

 私が落ち込んだのを察してか、身体に回る腕の力が強まった。

「おそらくはね」
「そっか……」
「だから、結婚しない? 転勤が多くて、それこそ海外もあり得るから瑠衣には迷惑をかけちゃうけど……」

 一瞬、彼の言葉の意味を理解できず固まった。

「瑠衣?」
「は、はいっ!」
「結婚しよう?」
「はい!」

 私が元気いっぱいに返事をすると、心底嬉しそうな微笑みが向けられた。

(結婚……貴一さんと、結婚かぁ……うわぁ、嬉しい)

 貴一さんと私が結婚するなんて、プロポーズをされてもまだ現実味が感じられなかったが、断る選択肢なんて万に一つも持ち合わせていない。

 妻になれば、彼がどこに行ってもついていける。一緒に暮らせる。それ以上に大事なことなんてなにもない。

「そんな簡単に返事をしちゃっていいの? 仕事、長くは続けられないよ?」
「大丈夫です! 非常勤での募集もありますし! 貴一さんと一緒にいられるなら!」

 私が満面の笑みを浮かべて言うと、貴一さんの額がこつんと押し当てられた。

「瑠衣は俺を喜ばせてばかりだね。瑠衣が俺のスーパーヒーローみたいだ」
「ふふっ、そんなことないです。私にとって貴一さんがスーパーヒーローです。何度も助けてくれたじゃないですか」
「そうだよ……だって、瑠衣を助けられるようになりたかったんだから」

 よかった、無事でと、心底安堵した声で言われ、言葉に詰まる。
 私は彼の胸にぎゅうっと抱きつき、しんみりとした雰囲気を変えるようにひときわ明るい声で言った。

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