失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
 第六章


 事件から一ヶ月が経った。
 私はキッチンで貴一さんと自分のお弁当を作りながら、朝食の用意をする。

 何度か警察から連絡があり、例の男の自宅から私のハンカチや下着、それに帽子が見つかったと聞いた。窃盗の容疑も追加されて起訴されるだろうとのことだった。

 詳しい話を聞けば、どうやら男は、引っ越しの挨拶がきっかけで私に好意を寄せ始め、近づくチャンスを窺っていたらしい。
 けれど、話しかける勇気がなく、私が仕事でいない日中にベランダを下りて、洗濯ものを漁っていた。そして偶然、電車内で私を見かけて痴漢行為を働き、行動がエスカレートしていったという。

 その話を聞いたとき、今まで気づかなかった自分の愚かさと警戒心のなさを悔やんだ。
 すべてにおいてちょっとした違和感はあったはずなのに、ベランダに誰かが盗みに入っているなんて考えもしなかった。

(思い出す度に気持ち悪い。完全にトラウマだよ。もう二度と会うことはないし忘れよ)

 私と貴一さんは、一週間前から渋谷区内にあるマンションで夫婦生活を送っている。

 結婚式も挙げていないのに籍を先に入れたのは、夫婦じゃなければ公務員の家族用の宿舎には入れなかったからだ。

 結局、いいところに空きがなかったため、賃貸マンションを借りて暮らすことになったのだが、新婚生活はかなり楽しい。
 マンションは十階建ての六階で、広さは2LDK。
 駅直結のそれなりに広い分譲マンションのため、住んでいるのは子どもを持つ夫婦が多い。家主が転勤になったようで、賃貸で出されていたのはラッキーだった。

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