失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
 環境も変わったし、なにより仕事の行き帰りに暗い夜道を歩かずに済むから、恐怖を感じずにいられる。家賃を支払ってくれている貴一さんのおかげだ。

「おはよう」
「貴一さん、おはようございます」

 おかずを弁当に詰めていた私は一度手を止めて、寝室からパジャマ姿で出てきた貴一さんを振り返った。

「結婚したのに、瑠衣はまだ慣れないね」
「あ……ごめん」
「謝ることじゃないよ。君の高校時代を思い出すから好きだけどね」

 結婚したんだから、もう少し砕けて話してほしいと言われているのに、私はいまだに慣れない。

「貴一さん、お弁当できたよ」
「いつもありがとう。今日の夜は拓実くんが来るんだよね?」
「はい」

 拓実に結婚したことは伝えたが、まだ直接会ってはいない。
 警察の連絡や引っ越しでバタバタしていて忙しかったのだ。

 この部屋に拓実を呼んだらどうかと提案したのは意外にも貴一さんだった。
 そういえば以前に一緒に食事をと言っていたのを思い出し、拓実に連絡を取ると「結婚祝いを持って行く」と返事があった。

「定時に帰るつもりだけど、もし拓実くんの方が早く着いたら、どこかで待っててもらってね。部屋で二人きりはだめだよ」
「貴一さんってば。そんなにヤキモチ焼くなら、外でご飯にした方がよかったんじゃないの?」
「なに言ってるの。瑠衣との生活を見せつけて牽制するんだから、うちでいいんだよ」
「牽制って!」

 そのつもりもないのに牽制される拓実が可哀想過ぎる。
 私が苦笑を返すと、貴一さんが宥めるように頬にキスをした。そのまま洗面所へと行ってしまう。
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