失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「うん、でも詳しくは言えないけどね。妬く理由があるって知っておいて」

 妬く理由とはなんだろう、と気になりはしたが、貴一さんがそれ以上言うつもりがないことを察して頷いた。

「うん」

 そういえば、一緒に暮らし始めて私が告白した日。
 突然、あの店に来なくなったのはどうしてかと聞いた私に対して、貴一さんは言葉を濁した。それについて話すのは少し待ってほしいと。話さなきゃならない相手がいるとも。

 もしかしたら、それが拓実なのかもしれない。
 二人の間に私以外の接点はなかったはずだが、どこかで会っていたのだろうか。

「じゃあ、そろそろ行くね」
「行ってらっしゃい」
「瑠衣も。じゃあ帰るときに連絡するね」

 彼が玄関を出ていくのを見送り、私もエプロンを外して出勤の用意をする。
 用意と言っても、あとは後ろに一つ結びにした髪を、子どもたちに引っ張られないようにアップにするだけだ。


 その日の夜。
 私とほとんど同じくらいの時間に、貴一さんが帰ってきた。十八時を過ぎたばかりだから、定時で帰ってきてくれたようだ。
 拓実が着くのは十九時過ぎになると言っていたから、まだかなり時間に余裕がある。

 私は早速とばかりにキッチンに立ち、料理を作り始める。
 根菜とこんにゃくを下ゆでして、ざるに空けておき、調味料を鍋に入れた。
 煮立った汁に小さく切った鶏肉、根菜、こんにゃくを入れて、落とし蓋をする。IHヒーターのタイマーをセットし、あとは放置。
 魚の切り身に塩を振っておき焼くだけの状態にする。わかめと豆腐の味噌汁を作り、ブロッコリーを茹でてごま和えにした。

(これくらいでいいかな?)

 でも拓実は肉派だから、焼き魚と煮物と付け合わせだけでは物足りないかもしれない。ちょうど煮豚と煮卵を作って冷蔵庫に入れてあるから、それを出せばいいだろうか。

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