失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「あ、ご飯炊かないと」

 炊飯器のスイッチを入れるのを忘れるところだった。
 やはり自宅に人を招くと、いつもとは違う緊張感があるものだ。炊飯器のスイッチを入れて、やり残したことはないかとキッチンを見回した。

「洗濯ものは取り込んでクローゼットに入れたよ」
「ありがとう~」
「そっち手伝う?」
「ううん、こっちも終わった。あとは拓実が来たら魚を焼くだけ。お腹空いた? 煮物でも摘まむ?」
「食べ始めたら止まらなそうだからやめておくよ」

 ソファーに座る暇もなく、オートロック入り口のインターフォンが鳴った。
 貴一さんが応答すると拓実の声が聞こえてくる。
 私はフライパンにクッキングシートを敷き、水分を拭き取った魚の切り身をのせた。五分もかからずできるだろう。

「貴一さん、おかずとかテーブルに運んで」
「わかった」

 ランチョンマットを敷いた四人掛けのテーブルに、一人分ずつおかずを置いていく。
 私の実家は大皿でみんなで取っていたが、二人暮らしではどうしても余ってしまうため、こういう形になったのだ。

 私と貴一さんが並び、貴一さんの前を拓実の席にした。
 そうこうしているうちに部屋のインターフォンが鳴り、貴一さんが玄関に向かった。

 玄関でなにか話している声が聞こえてくるが、話の内容まではわからない。
 私はご飯を茶碗によそいテーブルに運び、三人分のグラスを用意する。

 リビングのドアを開けて拓実が入ってくる。

「よ、お疲れ」
「お疲れ~来てくれてありがとね。どうぞ座って座って」
「おう。これ結婚祝い」
「え~ありがとう! なになに?」

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