失恋したはずなのに、エリート警察官僚の再会執愛が止まりません
「乾杯。結婚おめでとう。長年の想いが叶ってよかったな」

 グラスをかつんとぶつけられて、私は「ありがとう」と返した。
 拓実はグラスに入ったビールを一気に飲み干した。

「ほら食べて食べて。お腹に入れないと悪酔いするよ」
「んじゃ、いただきます……うん、うまっ。お前、相変わらず料理は上手いよなぁ」
「料理〝は〟ってなによ」
「いや、勉強はからっきしだめだったじゃねぇか。でもそれも、旦那のおかげで成績上がってたけど」

 拓実は懐かしそうに目を細めると、貴一さんに向かってにやりと笑った。

「知ってます? こいつ、あなたに褒められたいがために勉強やる気になったんですよ。テスト前に俺がつきっきりで教えてたときは『面倒くさい』『勉強嫌い』しか言わなかったのに。あの頃……つか今もか、会うたびにあなたの話ばかりです」
「あぁ、聞いたよ。会わない間も俺を忘れないでいてくれたなら嬉しいよね」

 貴一さんは嬉しそうに目を細めて私を見つめた。
 会わなかった十年間。なるべく思い出さないようにしていただけで、ずっと貴一さんに失恋したことを引きずっていた。だから新しい恋をしようとは思えなかったのだ。

「会えなくなった理由は、まだ教えてくれないんですか?」

 私が聞くと、なぜか貴一さんの目が拓実に向かった。
 拓実は軽く頷き居住まいを正す。そして、私に向かって頭を下げた。

「悪かった。それ、俺のせいなんだ」
「え……?」

 貴一さんが夏休み以降あの店に来なくなった理由に、拓実が関わっているのだろうか。どういうことと首を傾げる私に、拓実は決まりが悪そうな顔を向けた。

「俺が……この人にうそを教えた」
「うそ?」
「俺とお前が付き合ってるって。だから、これ以上付き纏わないでくれと」
「えぇぇっ!? なんで!?」

 驚くあまり手に持っていた箸を落とすと、貴一さんが見事にキャッチし、テーブルに戻してくれた。

「ありがとう……じゃなくて、だからなんで?」

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